美容室チェーン「Agu.hair」を中心に、全国で年間約500件の空間デザインや設計・施工、メンテナンスを手がけている株式会社建.LABO。「スペシャリストが集まるラボ」として美容室の空間デザインやサロンに適した物件を選定する不動産事業、店舗ロゴ・看板のデザインなど、店舗づくりに関わる幅広い領域でトータルソリューションを提供している。
同社では2018年にANDPADを導入し、本格的に運用を始めたのは約1年後。そこで今回は不動産部マネージャーの杉山絵理さんと営業企画部マネージャーの山田宗弘さんにインタビューを実施。前編では同社の事業の特徴や活用できていなかったANDPADに着目した経緯、社内外に運用を浸透させたポイントなどを伺った。
INDEX
- 年間130件の新規出店を支える、美容業界に軸足を置くスペシャリスト集団
- 育休復帰で迫られた業務効率化。ANDPADを浸透させるため、店舗管理でやってみせた
- 協力会社に利用してもらうポイントは「伝え方」。至らない部分を認め、活用メリットを説いた
年間130件の新規出店を支える、美容業界に軸足を置くスペシャリスト集団
2016年に創業し、全国展開の美容室チェーン「Agu.グループ」を中心に店舗の設計・施工・メンテナンスを行う株式会社建.LABO。美容業界に強みを持ち、積み上げてきたノウハウをもとにプロダクトデザインから不動産まで、サロンに関連する様々なサービスを展開している。
杉山さん: 当社の主力事業は、グループ企業が展開する「Agu.hair」関連の工事です。Agu.グループでは年間約130店を新規出店していて、そのすべての店舗デザインや施工を当社が請け負っています。それだけではなく、全国47都道府県にある既存店約750店で発生するメンテナンス工事も一手に引き受けており、全て含めると年間500件程度の施工を行っています。私はこちらのAgu.グループの案件を担当しています。
山田さん: 近年はグループ外の案件獲得にも力を入れています。こちらは美容業界だけでなく、フィットネスなどあらゆる業界に営業をかけています。社内では「一般」案件と呼んでいて、私はこちらに注力しています。
(左から)株式会社建.LABO 不動産部 マネージャー 杉山 絵理氏、営業企画部 マネージャー 山田 宗弘氏
杉山さんは大学卒業後、大手ハウスメーカーに営業職として就職。今でこそ女性の営業職は当たり前になったが当時はまだ珍しく、たった一人の女性営業だったという。
杉山さん: 男性ばかりの組織の中で孤軍奮闘しましたね。実家が工務店を営んでおり、ハウスメーカーを退職した後はそちらで働きました。事業継承も考えたのですが、結婚を機にそれはしないと決めて、2017年に建.LABOに転職しました。
育休復帰で迫られた業務効率化。ANDPADを浸透させるため、店舗管理でやってみせた
同社がANDPADを導入したのは2018年。だが当時はANDPADに資料をアップしていた程度で、活用できているとは言い難い状況だったという。変化が起きたのは2019年。きっかけとなったのは、杉山さんの仕事復帰だ。
杉山さん: 2018年に産休・育休に入り、2019年に仕事に復帰しました。ちょうどそのころに親会社が上場に向けて組織を再編し、当社はグループ会社になりました。それに伴って私も役割が変わり、通信やクレジット関連機器の導入といった、出店に必要なソフト面の準備を行う「店舗管理」という部門を任されることになったんです。
復帰当初はともかく時間に追われていました。自分が手をかけるべき仕事は山ほどある。一方で子どものお迎えに行かなければいけない。さまざまな制約があるなかで「どうやって仕事を効率化すればいいのか」を日々考え続けていましたね。
仕事と家庭の両立は、男女問わず悩みの種だ。特に育休から復帰したばかりの人にとっては、それまでの生活とのギャップが大きく、退職してしまう人も少なくない。
参考:内閣府が発表する「令和4年版 少子化社会対策白書」によれば、「女性の出産前後の就業をめぐる状況をみると、第1子を出産した既婚女性で、第1子の出産前に就業していた女性のうち、出産後に就業を継続した女性の割合は、これまで4割前後で推移してきたが、2010年から2014年に第1子を出産した既婚女性では、53.1%へと大幅に上昇」しているという。ただ、依然として半数弱は仕事を辞めており、正社員だった女性が仕事を辞めた理由としては「仕事を続けたかったが、仕事と育児の両立の難しさで辞めた」(30.2%)が最も多く、非正社員では、「家事・育児により時間を割くために辞めた」(29.7%)が特に多かった。「仕事を続けたかったが、仕事と育児の両立の難しさで辞めた」と回答した人にその理由をたずねると、正社員では、「育児と両立できる働き方ができなさそうだった」「勤務時間が合いそうもなかった」と続く。正社員だったが仕事を辞めた男性の答えた理由も「勤務時間が合いそうもなかった」が最も多かった。
内閣府が発表する「令和4年版 少子化社会対策白書」より、一部抜粋
杉山さんは自分が仕事を抱え込むのではなく、社員それぞれ自分でできることを自分で行えるような仕組み化ができないか探った。そこで活用したのがANDPADだ。
杉山さん: ANDPADはちょうど私が産休に入ったころに導入されました。調べてみるとANDPADには業務効率化に役立ちそうな機能がたくさんあり、「こんな便利なものがあったなんて」と驚きましたね。これを使わない手はありません。
とはいえ社内には使い方を熟知している人はいなかった。利用に後ろ向きな声すらあったという。その状況で「ANDPADを使いましょう!」と呼びかけても、受け入れてもらえないのは明白だ。そこで論より証拠。まず自部署である店舗管理で活用し、実用性を証明することから始めた。
杉山さん: 店舗を出店する際には「施工営業」「設計デザイン」「店舗管理」の3部門の協力が必要なのですが、情報連携がうまくいっていませんでした。ここにANDPADを使えないかと思ったのです。例えばNTTの工事です。それまでは電話で行っていた現場との日程調整をANDPADに切り替えました。
同時に協力会社にもIDを付与。「施工営業」と協力会社がANDPADのチャットで直接やり取りできるようにしたことで、「店舗管理」を介して電話で”伝言ゲーム”をする必要がなくなり、納品日などがスムーズに決められるようになったという。「店舗管理」だけでなく「施工営業」の負担も軽減され、次第に他部署でもANDPADの便利さを実感してもらえるようになっていった。
少しずつ社内で理解が広がっていくのに合わせて、店舗管理以外の部門との情報共有も進めていった。それにより今では「施工営業」「設計デザイン」「店舗管理」それぞれの部門が、店舗のオープンまでのスケジュールに落とし込んだときに、何をいつまでにやる必要があるのか、製図期間なども含めてルールをつくり、仕組み化ができているという。
特に流通の方々は現場に入る回数も1日だけなど少ないこともままあるが、同社は、そうしたメーカーや卸業者からまず巻き込んだ。入場日数の少ない彼らがANDPADを使いこなしていれば、その他の業種の協力会社や社内のメンバーがANDPADを使わない理由を無くしていける。“入場日数の少ない方がANDPADを使わないことを良しとする妥協点”をつくることで、例外対応の工数が残り、結果として生産性の変化を感じにくくなってしまう、ということは起こりがちだ。その点、同社のこうした進め方は内装ディスプレイ業界に限らず、社内外の利用を進めていきたい多くの企業にとって参考になるはずだ。
協力会社に利用してもらうポイントは「伝え方」。至らない部分を認め、活用メリットを説いた
同社では協力会社などビジネスパートナーとの信頼関係を大事にしており、「元請けと協力会社」ではなく「仲間」として一緒にプロジェクトの完遂を目指している。協力会社との関係は良好だったが、実務のうえでは課題も抱えていたという。
杉山さん: 現場写真はすべてメッセンジャーアプリを使って共有していたのですが、「番頭さんとデザイナー」「番頭さんと施工営業」など、個人間で送受信が行われていたんです。当社のバックオフィスやデザイナーの知らないところでやり取りが進み、コミュニケーションがブラックボックス化してしまっていました。その結果、会社として職人さんの仕事内容やスキル、人柄がつかめず、きちんと品質管理ができていませんでした。社員がどういった対応をしているのかもわからず、そちらの評価もしようがない。今考えるとあり得ない状況でしたね。
また社内で情報把握・共有ができていないことで、職人さん達に迷惑がかかるケースもあったという。
杉山さん: 部署間できちんと情報共有ができていなかったために、デザイナーと施工営業で職人さんへの説明内容が違ってしまうという事態が発生していました。それでは職人さんは困惑しますし、再確認に手間がかかります。
ANDPADを活用すれば状況を改善できるかもしれない。だが特に電話などアナログで情報共有をしてきた協力会社にとって、デジタルツールの利用はハードルが高い。IDを付与しても使ってもらえず、反発を招く可能性もある。同社のように協力会社を大事にする会社であればあるほど、強く利用は促しづらいものだ。だが同社では協力会社にも利用を浸透させることができている。それには杉山さんの配慮が大きく影響している。
杉山さん: 協力会社さんにANDPADの利用をお願いする際に一番気をつけたのは「言い方」です。まずそれまで当社の対応で良くなかった部分、行き届いていなかった部分をきちんと認めました。そのうえでANDPADを使えば改善できること、協力会社さんの手間が減ることをお伝えしました。
上から目線で導入を進めるのではなく、まず迷惑をかけたことを伝えたうえで、活用には大きなメリットがあると理解してもらった。この対応により、協力会社にも報告機能を使ってもらえるようになったという。
杉山さん: ちょうど育休から復帰したばかりで、一歩引いた場所から状況を冷静に分析できたことが功を奏したのだと思います。今振り返ってみると、少し無理矢理だったような気もしますが(笑)。
山田さん: でも杉山さんが引っ張ってくれたことで、社内外でANDPADが浸透していきました。無理矢理でも進めなければ、変わらなかったと思いますよ。
ANDPADの利用を促進するために、社内にはまず自部署で使い、徐々に他部署との連携を拡大。社外には自社の至らなかった部分を明示し、メリットを示して心理的な利用障壁を取り除いた。社内・社外の状況に合わせて対応を変えたことで、運用は浸透していったという。
同社で取り扱う多くの案件はグループ内からの受注であり、利益を生み出しにくい業務だからこそ、粗利を最大化するためにオペレーションを型化していく必要性を感じていた。後編では、そうしたグループ内案件を型化していく取り組みや、アスベスト法改正対応などについて聞いていく。
URL | https://kenlabo.co.jp/ |
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代表者 | 米崎 慎也 |
設立 | 2016年6月20日 |
本社 | 東京都新宿区新宿2-16-6新宿 イーストスクエアビル6F |