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群馬県伊勢崎市に本社を置く株式会社ヒカリS.Eは、冷凍冷蔵設備、空調設備、電気設備、プラント設備、建築工事を横断的に手掛ける総合エンジニアリング企業だ。創業以来、エンジニア(※)を自社で雇用し、自社で施工を行う「自前主義」にこだわり、その技術力の高さで事業範囲を拡大。提案から保守に至るまで、自社で工事を完結させる「ワンストップ施工」や、厳しい食品衛生管理基準を遵守した「HACCP対応」を強みに、大手食品メーカーや官公庁から信頼を寄せられてきた。2025年には、年間売上25億円を見込んでいる。
(※)同社は、現場施工をする社内職人のことをエンジニアと呼んでいる。
自前主義を貫くには、技術力を持った社員が定着し、若手を育成する環境が不可欠。働きやすさや業務効率化にも積極的に取り組んでいる。そのひとつがDX推進だ。2023年にはANDPADボードを、2024年にはANDPAD施工管理とANDPAD図面を導入し、エンジニアの稼働管理や案件の一元管理に活用している。本記事を通じて、建設業界における人材育成と定着、そして顧客信頼獲得のための経営戦略について、具体的なヒントを得られるはずだ。
今回は、株式会社ヒカリS.EでDX推進に取り組む根岸遼さんと柳生和家さんにインタビューを実施。前編では同社が創業した経緯や、強みの源泉、働きやすさへの取り組みについて話を伺った。
エンジニアを自社で抱える「自前主義」を実現する、働きやすさへの取り組み

現在、社員数は84名。そのうち自社のエンジニアは全体で50人ほどおり、社員の過半数がエンジニアだ。10年以上前から新卒採用と若手育成にも力を入れ、毎年2~3名のエンジニアをコンスタントに採用。30歳手前で職長として働くエンジニアもいるという。根岸俊光さんの長男であり、冷熱設備統括部で次長を務める根岸遼さんは、若手の育成についてこう話す。
根岸さん: エンジニアが一人前になるまでは、3年から5年ほどかかります。技術を高めるだけでなく、お客様とのコミュニケーション能力を身につけることも必要だからです。ただ、人と話すのが得意な社員もいれば、黙々と作業することが得意な社員もいますので、それぞれの適性を見極めながらキャリアプランを考えるようにしています。

株式会社ヒカリS.E 冷熱設備統括部 次長 根岸 遼さん
ONE編集部より
データで見る建設業界の人材不足と若手入職者の動向参照:建設業における人材確保に向けた取り組みについて
令和6年8月29日 国土交通省 北陸地方整備局
https://jsite.mhlw.go.jp/niigata-roudoukyoku/content/contents/4_060829ngtjinzaikakuho_seibikyoku.pdf
せっかく育てた若手が独立してしまうことはないのだろうか。そう聞くと、根岸さんは「今のところはないですね」という。
根岸さん: 理由のひとつに、給与水準を高く保つように努力していることがあると思います。弊社は創業当時から完全固定給であり、ここ数年は平均で7%ほどの給与アップを実現できています。決算賞与を含めると、年間で5~6カ月分のボーナスが出ることもあります。
もうひとつ考えられる理由として、今の若い世代が「安定志向」なのがあるのかもしれません。独立すれば、車両や工具などを自前で用意しなくてはなりませんし、経理などバックオフィス系の仕事も必要になります。「そこまでするのは大変だ」と、冷静に考えているようですね。

給与水準の高さに加え、働きやすさへの取り組みも進んでいる。女性活躍推進や育児休業制度を対象とした両立支援の取組が認められ、「群馬県いきいきGカンパニー認証制度」において「ベーシック認証」を取得した。実際に、入社5年目の女性のエンジニアが現場で活躍しているほか、30代の男性社員が育児休暇を取得した例もあるという。
なぜ、同社は高い給与水準と働きやすさを両立できているのか。そこには、「自前主義」に裏打ちされた同社の強みと戦略があった。

ワンストップ施工やHACCP対応を強みにお客様の信頼を得る
同社は創業当時から「自前主義」を貫き、エンジニアを社員として雇用し施工にあたっている。そのこだわりは事業内容にも表れ、冷凍・冷蔵設備、空調設備、電気設備、昇降機など、自前で取り扱える範囲を徐々に拡大してきた。設計から施工、メンテナンスまで自社で完結できる「ワンストップ施工」が同社の大きな強みだ。
根岸さん: 外注への依存はコストに跳ね返りますし、内容によっては「それはうちの範囲外です」と線を引かれてしまうこともあります。自社でエンジニアを抱えているからこそ、お客様の細かい要望にも応え、かゆいところに手が届く対応ができるのです。その実績が安心や信頼につながり、大手クライアントからの継続受注にもつながっていると考えています。

同社の取引先には、大手菓子メーカーや大手飲食チェーン、大手樹脂加工メーカーが名を連ねる。すべての案件のうち、官公庁は約10%であり、残りの90%は民間企業だ。民間企業の案件では、数年前から直接取引に力を入れ、現在は売上の7割から8割が直接取引によるものだという。特定の大手クライアントに依存した構造から脱却し、新規開拓も積極的に進めてきた。
根岸さん: 下請けの案件は、元請け様の意向に左右されるところが多く、弊社の強みを十分に活かせない場面もありました。また、コンプライアンスの観点から材工一式の受注ができなくなり、ヒカリS.E側での材料の購入が制限され、工事だけの受注では利益が出にくくなったのも背景としてあります。私が入社する前は、売上が横ばいの時期も続いていたようですが、直接取引に注力してからは右肩上がりですね。いち早く直接取引の大切さに気づいた社長の先見の明には、いつも感心させられます。

売上の中心はリニューアル工事。新築物件は下請け工事として価格競争になりやすい側面があるため、「会社の方針として、当社の強みを最も活かせるリニューアル工事に、より注力しています」と根岸さんは話す。
根岸さん: 大手サブコン様は新築工事を優先することが多く、数千万円規模のリニューアル案件には対応しきれないケースも少なくありません。当社のような中小企業は、そこにビジネスチャンスがあると考えています。リニューアル工事はオーナー様と直接契約ができるため、価格競争には巻きこまれません。私たちの技術やサービスを正当に評価していただくことで、適正な利益を確保できるのです。

工事だけでなく、工事関連の保守・サービスを担う「サービス部隊」を有するのも同社の大きな強みだ。最初から何千万円という大きな工事を発注するのは、お客様にとってもハードルが高い。まずはサービス部隊による数万円規模のメンテナンスや診断から入り、徐々に信頼を得てから、最終的に大型案件の受注につなげていく、という流れができているという。近年は熱中症対策の義務化や、酷暑による機器故障への対策などから、例年に比べて更新需要も増え、サービス部隊への追い風となっている。

さらに、義務化以前から蓄積してきた「HACCP(ハサップ)」対応への深い理解とノウハウも、同社の大きな強みだ。2020年6月よりHACCPに沿った食品衛生管理が義務化され、食品工場の施工にもHACCP対応が求められるようになった。同社は以前より大手食品メーカーとの取引があり、非常に厳しい衛生管理のもと工事を行ってきた実績があったという。
根岸さん: HACCPの義務化以前から、作業時は防護服やヘアキャップを着用する、梱包に使われた木材は工場に入る前にすべて外に出すといった対応を徹底していました。木材は虫の発生源になる可能性があるほか、工場内の金属探知機に反応しないため持ち込みが厳禁されています。こうしたルールを、現場のエンジニアが当たり前のこととして理解しているのが弊社の強みです。
HACCPに対応するエンジニアは協力会社にもいますが、品質の統一などの観点から、極力自社のエンジニアで対応するようにしています。お客様からも「ヒカリS.Eさんは言わなくても分かってくれている」とお声がけいただくことも多く、その信頼と実績が新規案件の獲得にもつながっています。

エンジニアの稼働管理にANDPADボードを活用。休みの取りやすさにもつながる
前述の通り同社の強みは、自社でエンジニアを雇用する「自前主義」にある。しかし反面、自社でエンジニアを抱えているからこそ、稼働管理の難しさには長年悩まされてきた。ANDPADボード導入以前は、ホワイトボードを2つ使用して、エンジニア20名分の稼働管理を行っていたという。
根岸さん: エンジニア20名分の予定をホワイトボードで管理して、それを事務員が毎日写真に撮り、共有フォルダに保存して共有していたんです。現場で予定を確認したいときは、事務所にいる人間に電話やメールで問い合わせ、ホワイトボードの状況を確認してもらっていました。
もちろん、リアルタイムの情報ではありませんから、朝にホワイトボードを見たときは予定が空いていても、午後には埋まっている可能性があります。たとえば、職長が振替休日を申請している日に、別の急な仕事が入ったときなどは、会社に戻ってホワイトボードを確認しないと調整ができなかったんです。

全員が予定を書き込むことができ、リアルタイムで情報を共有できる仕組みはないか。そこでたどり着いたのが、ANDPADボードだった。2023年にANDPADボードを導入した当初は、エンジニアたちが戸惑う様子も見られたが、最終的に2枚のホワイトボードを撤廃することができたという。

根岸さん: エンジニア自身が、休みたい日に「休み」の予定を入れられるようになったので、「この土日は確実に休ませてほしい」といった意思表示もしやすくなりました。仕事が終わって会社に戻ってきたエンジニアが、上長とボードを見ながら「ここ入れ替えてくださいよ~」と会話する光景もよく見るようになりましたね。満足度で言うと120%です(笑)。
柳生さん: 複数のシステムを検討しましたが、使い勝手などの面からANDPADボードを選びました。将来的に施工管理分野の活用も視野に入れていたので、まずはANDPADボードから始めよう、という狙いもありましたね。

株式会社ヒカリS.E 業務部 柳生 和家 さん
過去のすべての案件をANDPAD施工管理に入力し、一元管理を実現
さらに、同社は2024年にANDPAD施工管理の利用を開始。ルームエアコン工事など小規模なものを除き、過去の工事情報をすべてANDPADに入れ、一元管理を行えるようにした。現在は案件が発生した段階で、営業か積算の担当者がANDPADに案件を作成するようにしているという。
根岸さん: 以前は、ファイルサーバー上で案件を年度別に管理しており、お客様単位でのフォルダ管理はできていませんでした。フォルダ作成方法も人によってまちまちで、担当者に聞かないと、どの年度のフォルダに何が入っているのかわからない。業務が属人化していたんです。それがANDPADによって解消されたのは、非常に大きかったですね。

柳生さん: SEとして、ファイルサーバーの容量圧迫は大きな課題のひとつでしたが、これもANDPADの導入によって大幅に改善しました。以前は過去のデータだけで1.5TBあり、この中から目的のデータを探すのは、それなりの時間と手間がかかったはずです。情報がANDPADに集約されたことで検索性が高まりましたし、物理的なサーバ管理のコストも削減できるので、本当に助かっています。
根岸さん: 繰り返しになりますが、これまでは過去の案件を探すのが非常に困難でした。ANDPADであればすぐに情報を見つけられるので、アフターメンテナンスの効率も格段に上がるはずです。ANDPADに蓄積された情報を、今後の営業活動やアフターメンテナンスに活用していければと思っています。

「自前主義」と「ワンストップ施工」で信頼を築き上げてきたヒカリS.E。その強みを維持し、さらなる事業成長を目指すためには、長年慣れ親しんだアナログ管理からの脱却という、大きな決断が必要だった。
ANDPADボードとANDPAD施工管理の導入により、情報共有の基盤は整った。しかし、新しいツールを現場に定着させ、真の成果を生み出すには、現場の理解と協力が不可欠だ。 後編では、現場のエンジニアや営業担当者がどのようにANDPADを使いこなし、図面共有や工程管理といった具体的な業務変革を実現していったのか。そして、それを可能にした「挑戦を歓迎する」組織文化について、さらに深掘りしていく。
| URL | https://www.hikari-group.com/ |
|---|---|
| 代表者 | 代表取締役 根岸俊光 |
| 設立 | 1998年9月 |
| 所在地 | 群馬県伊勢崎市田部井町1丁目1671番地24 |
















