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少子高齢化が進む中、建設業において見逃せない重要なテーマの一つが「担い手確保」です。仕事はあるのに施工ができない、といった問題に直面する方も多いのではないでしょうか。そこで本連載では、建設業において社労士として活躍する株式会社アスミルの代表 櫻井好美さんに、「人材確保のための労務管理」というテーマで解説いただきます。
今回も前回に引き続き、就業規則について一緒に考えていきましょう。就業規則というと「なんだか堅苦しい」「難しそう」と身構えてしまう方も多いかもしれませんが、決してそんなことはありません。
もしルールがなければ、判断基準が曖昧になり、トラブルが起こる度に対処法に頭を悩ませることになります。ルールを明確に定めておくことは、結果として会社と社員の双方が安心して働くための土台となります。まずは難しく考えず、私たちの身近なルールから見直していきましょう。
第8回となる今回は、就業規則の具体的な運用ルールを深掘りします。世代間の常識のギャップを埋めるための「服務規律」や、万が一の際のセーフティネットとなる「休職」の仕組み 、そして円満な「契約の終了(退職・解雇)」のルールなど、実務で直面しやすい重要なポイントについて解説します。
一般社団法人建設業サポート室 代表理事
服務規律について
「服務規律」とは、従業員が職場で守るべき勤務態度や行動の基本ルールのことです。
経営者の方から「わざわざ書かなくても常識だろう」という声を伺うこともありますが、現場単位で動くことが多い建設業では、個々の判断に委ねる部分が多いため、改めてルールを明文化しておくことが重要です。
特に最近では、若手からベテランまで幅広い世代が共に働いています。世代が違えば「常識」も異なるもの。日常業務を思い浮かべながら具体的に定めておくことで、無用なトラブルを防ぎ、現場の秩序を守ることができます。

ポイント:服務規律は「会社の秩序」と「社員の安心」を守るもの
服務規律に記載する事項は、単なる会社の命令ではありません。過去の判例(富士重工業事件)でも、「企業秩序は、企業の存立と事業の円滑な運営の維持のために必要不可欠なもの」と認められています。
「労働者は、労働契約を締結して企業に雇用されることによって、企業に対し、労務提供義務を負うとともに、これに付随して、企業秩序遵守義務その他の義務を負う」(富士重工業事件 最高裁第3小(昭和52年12.13))
ルールが明確であれば、真面目に働く社員が「自分勝手な行動をする人に振り回される」ことがなくなります。つまり、服務規律を徹底することは、誠実に働く社員を守ることにも繋がるのです。
休職について
休職に関する事項は、就業規則のなかでも「任意規程(使用者が任意に記載することができる事項)」にあたります。つまり、休職制度を設けることは法律上の義務ではありません。
しかし、多くの企業が制度を設けているのは、大切な人材が病気や怪我をした際に、すぐに退職させるのではなく、復帰を待つための「セーフティネット」としての役割があるからです。いざという時に制度の内容が明確であれば、社員も安心して治療に専念できます。
「どれくらいの間、休んでいいのか?」「その間の保険料の取扱いはどうするのか?」「どういう状態であれば復帰ができて、どういう状態であれば復帰ができないか?」など、休職に関して決めておくべきことは幅広く、個別の労働契約書だけでは書ききれませんので、就業規則への記載をおすすめします。
そもそも「休職制度」とは?
「休職制度」とは、そもそも何でしょうか? 一言でいうと、「社員の地位はそのままで、一定の期間会社をお休みできる制度」のことです。
本来、病気などで働けない状態(私傷病)は労働契約の履行ができないため、退職事由になり得ます。しかし、縁あって入社した仲間です。会社としても「治るまで待っているよ」という姿勢を示すために、この制度を活用します。
注意点は、休職中は「ノーワーク・ノーペイ」が原則であることです。従業員として業務はしていませんので、会社から従業員に対して給与を支払う必要はありません(もちろん、会社として補償をしてあげても問題はありません)。
また、病気の時だけでなく、例えば、どこか災害地域にボランティアに行きたいとか、一定期間もう一度学校で勉強をしたいといったことを休職として認めている会社もあります。最初にお話しした通り、法律的に定めなくてはいけない項目ではありませんので、会社としての取り決めが必要です。
最近の傾向をみると、メンタルヘルス不調による休職相談も増えています。「仕事についていけない」「人間関係で悩んでしまっている」ということから、精神的に追い詰められてしまうケースもあるようです。このような時は一度仕事を離れ、ゆっくりする時間が必要なのかもしれません。こうした際にも、あらかじめルールが決まっていることが、会社・社員双方の支えになります。
休職期間の考え方
休職制度を設けること自体が法律で義務化されているわけではありませんので、休職期間についても会社が任意で決めることができます。
先ほどもお話しした通り、休職期間中は従業員は仕事をしていませんので、「ノーワーク・ノーペイ」の原則通り、給与を支払う必要はありません。そのため所得税、雇用保険料はかかりませんが、注意すべきは、休職中も「社会保険料」の負担が発生する点です。給与が出ていなくても、会社と本人の保険料負担は無くなりませんので、会社として休職期間を設定する際は、このコスト面も考慮に入れて検討しましょう。
大企業であれば勤続年数に応じて複数年の休職期間を設定することもありますが、小規模・中小企業の場合は3カ月~6カ月ほどの期間で設定しているという話をよく耳にします。自社にあわせた休職期間を設定しましょう。
休職期間の報酬は? 傷病手当金について
加入している健康保険制度にもよりますが、ここでは協会けんぽの健康保険について説明します。協会けんぽの健康保険では、病気や怪我で働けない期間は「傷病手当金」が支給されます。会社が給与を払えなくても、公的なサポートがあることを社員に伝えてあげましょう。休職がスタートする前に、社会保険料の個人負担分や住民税の取扱いについて決めておくことも、後のトラブル回避のポイントです。

「病気やケガで会社を休んだとき(傷病手当金)」全国健康保険協会(https://www.kyoukaikenpo.or.jp/g3/sb3040/r139/ )を加工してANDPAD ONEにて作成
復職について
復職の要件については、休職に入るタイミングで休職者と必ず書面で確認をしてください。休職に入る時は納得してお休みに入るものの、いざ休職期間が満了し、復帰ができないような状況になった時に揉めるケースを多く聞きます。トラブルを無くすためにも、「どのような状態(医師の診断書等)になれば復職を認めるか」といった復職の要件を明確にしておくことが必要です。
労働契約の終了
労働契約の終了には、大きく分けて「定年」「自己都合」「解雇」の3パターンがあります。
パターン1:定年による退職
「定年」とは、労働者が一定の年齢に達したときに労働契約が終了する制度のことです。現状の法律では、会社が定年を定めるときには、60歳以上の定年を定めなければならないとなっています。また、65歳未満の定年を設けている企業の場合は、65歳までは安定した雇用を確保しなくてはならないとなっています。
人手不足の建設業界では、65歳以降もベテランの技術を活かせる制度作りが不可欠です。なお、定年以降については、有期契約になりますので、労働条件は1年ごとに見直すことが可能です。定年以降は、体調や働き方への考え方等が変わっていくものです。企業から従業員に対して、役割と業務内容を明示し、労働契約を結びましょう。
パターン2:自己都合による退職
民法では原則「2週間前」の申し出で解約できるとされています。しかし、現場の工程管理や引き継ぎを考えると、2週間では到底足りません。
そのため、就業規則で「退職は1カ月前までに申し出ること」と定めておくことが一般的です。申し出の期限を決めておき、社内で周知しておくことが大切です。
退職時の引継ぎ
退職が決まると「退職日までの1カ月間、有給休暇を使わせてください」という申し出をされる方が増えていると聞きます。有給休暇は働く人の権利ですから取得していただくのは問題ありません。ただ、有給休暇取得の前にしっかりと業務の引継ぎを行わなくてはならないということを明文化しておくことが望ましいです。
貸与物の返還
退職時には、作業着、保険証、車の鍵、ETCカード等、返却物をリスト化しておき、スムーズな手続きができるようにしておきましょう。
退職届
退職の申し出は、本人から、必ず書面でもらいましょう。口頭だけであっても退職の意思表示にはなりますが、後のトラブルをさけるためにも、書面で退職届を出してもらうか、それができない場合は会社から「退職承諾書」を本人に交付するなどして、退職日を確認し、書面上に残しておくとよいでしょう。
パターン3:会社から通知される解雇
解雇は会社側からの契約解除ですが、日本の法律では非常にハードルが高いのが現実です。「仕事が遅い」「なんとなく合わない」といった理由だけでは、客観的に合理的な理由とは認められず、無効になるリスクがあります。
だからこそ、就業規則に「どのような場合に解雇事由に該当するか」を具体的に記載し、必要に応じて段階的な指導(注意勧告など)を行った記録を残しておくことが重要です。
解雇予告手当
従業員を解雇しようとするときは、解雇しようとする日の30日以上前に予告をしなくてはいけません。この予告ができない時は、解雇予告手当といって、平均賃金の30日分以上の解雇予告手当を支払う必要があります。あるいは、平均賃金を支払えば、支払った日数分だけ解雇日を前倒しにすることも可能です。
(例)5月1日に、5月20日付けの解雇予告をした場合、20日前の予告になるため、10日分の平均賃金の支払いが必要になります。
解雇制限
いかなる理由があっても、労働基準法の定めで解雇をしてはいけない期間があります。

働くルールの重要性
前編・後編にわたり、就業規則について解説してきました。小規模事業所では、日々の業務上でのやり取りも距離が近く、暗黙の了解やその場の判断に頼りがちです。だからこそ就業規則によるルールの明確化が重要になります。
働き方や休暇、服務規律などをあらかじめ明文化しておくことで、「言った・言わない」といった誤解や感情的な対立を防ぐことができます。
就業規則は従業員を縛るためのものではなく、安心して働くための共通の土台です。ルールが明確な職場は公平性が保たれ、信頼関係が育まれます。その積み重ねが、トラブルの少ない、働きやすい職場環境をつくり、安定した成長につながっていくのです。ぜひ、就業規則の作成にトライしてみましょう。
| URL | https://www.asmil.co.jp/ |
|---|---|
| 代表者 | 櫻井 好美 |
| 本社 | 〒270-0034 千葉県松戸市新松戸3-33 京屋ビル3F |















