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今さら聞けない 建設業の労務管理/人材確保のために今日からできること#09

「多様な働き方」実現のための環境づくり

目次

  1. 「多様な働き方」の種類
    1. ①テレワーク
    2. ②短時間正社員制度
    3. ③フレックスタイム制
    4. ④副業
  2. 「多様な働き方」を実現するための環境整備
    1. ①客観的な時間管理
    2. ②業務の洗い出し・チーム制の導入
    3. ③ICTの活用
    4. ④生産性で評価
  3. できることから少しずつ

建設業はこれまで、長時間労働や現場中心の働き方が当たり前とされてきました。それは天候や現場の状況によって進捗が左右される屋外作業が中心であること、そして発注者の要望に応える一品生産という側面が強いため、工期厳守のために現場に張り付かなければならないといった実態があったからです。特に小規模事業所では、限られた人員で現場を回す必要があるため、働き方の見直しよりも工期のある仕事を優先せざるを得ないという現実もあります。

しかし、技能労働者の高齢化や若年入職者の減少により、人材確保がますます困難になってくる中で、事業を継続していくには、従来の画一的な働き方を見直していく必要があります。「建設業だから無理だ」という考え方から「建設業でもできる働き方はないか?」という視点を取り入れていきましょう。

これからは、約800万人いるとされる団塊の世代が75歳以上となる「大介護時代」とも言われる大きな社会変化が本格的に到来します。従業員が家族の介護や育児、健康など様々な事情を抱えながら働くことが当たり前となる中、企業には多様な働き方を認める柔軟な組織づくりが求められるのです。

とりわけ小規模事業所では、限られた人材がより長く働き続けられる環境づくりが重要です。持続的な成長のためにも、働き方の選択肢を広げ、誰もが能力を発揮できる環境整備がこれからの経営の重要課題と言えるでしょう。

 第9回となる今回は、建設業における「多様な働き方」を深掘りします。そもそも働き方にはどういった種類があるのでしょうか。具体的な事例をご紹介しながら、多様な働き方を実現するポイントについて解説します。

櫻井 好美 氏
社会保険労務士法人アスミル 代表
株式会社アスミル 代表取締役
一般社団法人建設業サポート室 代表理事
特定社会保険労務士 / ファイナンシャルプランナー / キャリアコンサルタント
大学卒業後、営業事務やコンサルティング会社での営業職に携わった後、社労士資格を取得し開業。国土交通省委託事業「建設業における労務管理セミナー」の他、大手ゼネコン協力店会や各企業安全大会、専門工事業団体において、「労務管理セミナー」「法定福利費セミナー」「建設業における働き方改革セミナー」等多数実施。同社の公式LINEでは、労務に関連する皆様の実務に関連する法律情報などを定期的に発信している。

 

「多様な働き方」の種類

多様な働き方にはいろいろな種類があります。ここで、いくつかご紹介します。

①テレワーク

テレワークとは、会社に出勤せず、ICT(PCやインターネットなど)を活用して自宅や外出先などで働く方法です。ただし、テレワークのできない職種もありますので、自社ではどの職種がテレワークできるのか?を検討していきましょう。また、必ずしも全ての業務をテレワークにする必要はありません。事務作業や打ち合わせなど一部業務から導入することで、無理なく柔軟な働き方を実現できます。

工務店の設計業務等については、テレワークが増えてきていると感じています。ここで、ある工務店での活用事例を見てみましょう。

活用事例

工務店の設計を担当している女性職員から、夫の転勤に伴い退職の相談がありました。せっかく業務にも慣れたところで、このまま退職をされてしまっては引き継ぐ人もいないことから、テレワークの導入に踏み切りました。本当にテレワークが上手くいくのか心配でしたが、オンラインで定期的なミーティングをすることと、現地社員との役割分担をすることで新しい働き方が確立できました。

活用のポイント

・労働時間の管理 
テレワークは就業場所が違うだけで業務は同じです。始業と終業時刻の連絡方法、業務報告等、時間の管理や業務指示についてのルールを事前に決めておくことが重要です。

・費用負担の明確化
在宅勤務の場合、通勤はありませんので通勤費の支払いは不要です。しかしながら、光熱費や通信費等がかかりますので、在宅手当の支給等、費用負担を明確にしておきましょう。

・コミュニケーションの確保 
対面ではないため、コミュニケーションが不足しがちになります。チャットツールを活用したり、定期的にオンラインミーティングを組んだりして、情報の共有不足を防ぎましょう。

テレワークを活用しているANDPADユーザーのインタビューはこちらから

・熊本県に本社を構えるハウスメーカーのLib Work様は、紙ベースだった受発注業務をANDPADに移行し効率化。オフィスにいなくても現場の状況や発注の進捗を確認できるようになり、テレワークを実現しています。

・自然素材エコハウスの注文住宅設計・施工を行うオーガニックスタジオ新潟様は、コロナ禍を機にデジタルシフトを加速させました。ANDPADを導入し、資料などをクラウド環境で共有し一元管理。業務の効率化を図りながらテレワークを取り入れ、ライフステージの変化にも対応できる多様な働き方を実現しました。

・愛知県を拠点に全国の電気設備工事・計装工事を手がける東海イーシー様は、ライフステージの変化に合わせ、社員が時間を有効に使える環境を作るべくテレワークを導入。ANDPAD活用による資料のデジタル化で、在宅でも現場や社内と確実な情報共有が可能になりました。柔軟な働き方は、社員の会社への愛着度向上にもつながっています。

 

②短時間正社員制度

短時間正社員制度とは、正社員としての雇用形態を維持しながら、所定労働時間を通常の正社員より短く設定して働ける制度です。雇用期間の定めがなく、責任の重さや役割がフルタイム正社員と変わらない点が、パートや契約社員との大きな違いです。

この制度は、育児や介護を担う人、治療と仕事の両立、自己研鑽や地域活動と仕事の両立をしたい人など、フルタイム勤務が難しい人材に適しています。企業にとっても、優秀な人材の離職防止や多様な人材の活躍につながる働き方の一つとして注目されています。事例を紹介します。

活用事例

勤務態度がよく、業務にも精通している社員がいますが、子どもが保育園に通っているため残業することができません。今まで正社員以外の働き方はパート社員しかありませんでしたが、優秀な人材であればしっかり評価をしていきたいと思い、短時間正社員制度を導入しました。

活用のポイント

・業務内容の明確化 
短時間正社員とは、あくまで正社員と同様の仕事をしていますが、所定労働時間が短いということです。短時間でも成果が出せるように、担当業務や役割を明確化しておくことが重要です。

・評価基準の明確化 
短時間正社員は、労働時間が短くても、フルタイムの社員と同じ業務内容であれば同じ時間単価とする必要があります。ただし、フルタイムの社員は残業をしたり、急な仕事にも対応したりします。不公平感が生じないよう、貢献度については賞与での評価をするといった仕組みも求められます。評価基準を明確にし、公平性のある処遇ルールを決めておくことが大切です。

 

③フレックスタイム制

フレックスタイム制とは、一定の期間(清算期間)の総労働時間を満たすことを前提に、日々の始業・終業時刻を従業員が柔軟に決めて働くことができる制度のことです。コアタイム(必ず勤務する時間帯)を設ける場合と、設けない場合があります。通勤ラッシュの回避や育児・介護との両立など、個々の事情に合わせた働き方が可能となり、従業員の働きやすさの向上、生産性の向上につながる制度として活用されています。

活用のポイント

・労働時間の管理
フレックスタイム制を導入した場合、清算期間における総労働時間と、実際の労働時間の過不足に応じて、賃金の清算を行う必要があります。実労働時間を正確に把握するなど、適切な労働時間の管理が欠かせません。

出典:厚生労働省「フレックスタイム制のわかりやすい解説&導入の手引き」(https://www.mhlw.go.jp/content/001140964.pdf)より

・清算期間の上限は3か月
働き方改革の一環として法改正が行われ(2019年4月施行)、1か月だったフレックスタイム制の清算期間の上限が3か月に延⻑されました。これにより、より長い期間内で個人の都合に応じた労働時間の調整が可能となりました。

出典:厚生労働省「フレックスタイム制のわかりやすい解説&導入の手引き」(https://www.mhlw.go.jp/content/001140964.pdf)より

④副業

本業として勤務している会社とは別に、他の仕事や事業を行い、収入を得る働き方です。例えば、別の会社で働く、業務委託で仕事を受けて個人事業として活動するなどがあたります。

活用のポイント

・労働時間の管理:副業先での労働時間と合算して、長時間労働にならないよう注意が必要です。

・情報漏えい・競業の防止:自社の機密情報が外部に漏れないよう、同業他社での副業などは禁じるなどルールを設けます。

・健康管理:働き過ぎによる健康リスクを防ぐため、従業員の負担状況を把握することが大切です。

・就業規則の整備:副業の許可制、届出制など会社のルールを就業規則で明確にしておく必要があります。

・会社への影響の確認:本業に支障が出ないことを前提に運用することが重要です。誓約書等の活用をお勧めします。

 

「多様な働き方」を実現するための環境整備

ここまでいくつかの働き方をご紹介してきましたが、多様な働き方を導入するためには社内の環境整備が何よりも大切です。これを機会に社内の環境整備に取り組んでいきましょう。方法を具体的に解説します。

①客観的な時間管理

建設業界の小規模事業者でいまだに進んでいないのが、適正な労働時間の管理です。今までのような画一的な働き方から脱却するためには、時間に対する高い意識が重要です。勤怠アプリを導入するなどし、客観的に管理していきましょう。また、残業についても本人任せではなく申請制を導入することも方法の一つです。

②業務の洗い出し・チーム制の導入

建設業では業務の特性上、仕事が属人化しやすい面があります。テレワークや短時間正社員制度を導入する場合、まずは誰がどの業務を担当しているのかを整理したうえでマニュアルをつくるなどし、柔軟な働き方でも業務が回る体制をつくっていきましょう。チーム制を取り入れ、業務を複数人で担う体制づくりも有効です。心理的安全性が人材の定着率を高めます。

③ICTの活用

どんな働き方であってもコミュニケーションの質を担保するためには、オンライン会議やチャットなどを活用し、情報共有や意思疎通を円滑にしていくことが重要です。また、ICT環境の整備や、ICTに慣れていない人達へのフォローも欠かせません。

④生産性で評価

長時間労働=美徳の評価から、労働時間に関わらず、生産性の高い働き方を評価する仕組みを作っていきましょう。評価基準の見える化は多様な働き方では必須です。

 

できることから少しずつ

近年は人手不足が深刻化し、採用活動を行っても思うように人材が確保できない企業が増えています。こうした状況では、新たに採用するだけでなく、今いる従業員に長く働いてもらう「定着率の向上」も重要な経営課題です。

企業は、個々人のライフスタイルにあわせた多様な働き方を取り入れることで、離職防止や様々な人材の活躍につなげることができます。加えて、限られた人材で業務を進めていくためには、デジタルツールの活用は避けて通れません。難しくとらえず、身近なところから活用してみましょう。短時間正社員制度やフレックスタイム制などは法律とも深くかかわります。複雑な解釈や運用を伴うため、適宜専門家に相談してください。

「自社では多様な働き方は難しい」と感じることもあるかもしれません。しかし、すべてを一度に導入する必要はありません。大切なのは、できない理由を考えるのではなく、できることから少しずつ取り組んでいくことです。小さな一歩が、働きやすい職場づくりと企業の成長につながっていきます。

※本記事は一般的な解説であり、正確性や最新性を保証するものではありません。個別の事案については専門家にご相談ください。本情報により生じた損害等の責任は負いかねます。

株式会社アスミル / 社会保険労務士法人アスミル
URLhttps://www.asmil.co.jp/
代表者櫻井 好美
本社〒270-0034 千葉県松戸市新松戸3-33 京屋ビル3F
  
寄稿: 櫻井好美(株式会社アスミル / 社会保険労務士法人アスミル)
企画・編集: 平賀豊麻、正木皓二郎
デザイン: 横井香南、岩佐謙太朗
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