1926年に創業し、大阪府堺市を拠点に90年以上の実績を積み重ねてきた堺土建株式会社。創業以来、「顧客第一」の理念と「誠実」を尽くす姿勢を受け継ぎ、「地域による地域のための建設」を大切にする地場ゼネコンとして地域に根ざしている。
同社は、中長期を見据えた持続可能な企業体制を築くために人材育成に注力するなかで、将来的に社外コミュニケーションまで含めたデジタル化、それによる業務効率化までを見据えて2021年にANDPADを導入した。「ANDPAD図面」や「ANDPAD黒板」といった機能も活用しながら業務効率化に取り組んでいる。そこで、今回は同社のDXを推進する4名にインタビューを実施。前編では、長きに渡り地元に根差してきた同社の強み、社長の代替わりをきっかけに変化した組織体制や人材育成強化施策について伺った。
西嶋 秀美氏
堺土建株式会社 工事部 技術部長
高校卒業後、1981年に同社に入社。入社41年目。入社後一貫して技術部で現場担当として活躍。現在は品質管理部門の責任者として全現場を巡回し、指導にあたる。
賀川 博之氏
堺土建株式会社 第二工事部 課長
建築系専門学校を卒業後、1993年に同社に入社。現在入社29年目。新築部門の現場管理として、基本的には所長として現場に入るが、工期が遅れている現場などの応援を担当することも。
瀬口 顕吾氏
堺土建株式会社 第二工事部
1年間派遣スタッフとして従事した後、社風に惹かれて2019年12月に同社に入社。現在入社4年目。新築部門の現場管理を担当。
地域に根ざして「誠実」を尽くす姿勢を貫き、信頼関係の構築へ
創業90年超の歴史を誇る地場ゼネコンとしてお客様のニーズを的確に捉えながら、総合力ときめ細やかな対応で、一つひとつの仕事に情熱を注ぎ続けている同社。一貫して「誠実」を尽くし、地域に根ざしてきた。時代を超えて環境との調和を図るまちづくりを通して、堺の街や地域の人々の「明日(未来)にかける橋」となるべく、“常に誠意を尽くし、創意でつくる建築”を目指している。
同社の商圏は地元である堺市を中心とした大阪府全域のほか、一部兵庫県や奈良県、京都府など周辺エリアも含む近畿一円をカバーしている。延床面積200〜300平米規模の案件が多いものの、大きなものでは6,000平米程度の工事になることもあるのだとか。
賀川さん: 工事規模は案件によってさまざまで、時期によっても違います。200-300平米規模の案件であれば工種あたりの必要人員数は1〜2人で、1工程あたり1日で終わるようなものが多いです。一方で6,000平米程度の大規模案件になってくると、工種あたり10〜20人で作業をしています。
堺土建株式会社 第二工事部 課長 賀川 博之氏
西嶋さん: 当社の新築工事、改修工事は、過去に施工させていただいたお客様から再び受注をいただくことが多いですね。営業の対応力、施工クオリティ、メンテナンスなどの総合力によって得た信頼がリピートに繋がっています。
堺土建株式会社 工事部 技術部長 西嶋 秀美氏
下川さん: 他社さんからも「なぜ、そんなにリピート率が高いのですか?」と聞かれることが多いのですが、シンプルに一生懸命やってきたからこそ得られたもの。会社としてやったことがない未経験の工事内容であってもすぐに断ったりせず、いろいろな協力会社さんに相談してみたり、自社で調べたりと、常に「お客様のためできることをやろう」というスタンスで取り組んでいます。社長のそのような姿勢が、社員みんなに伝播しているとも言えますね。その姿勢がお客様にも伝わり、信頼を得て次の仕事に繋がっていく。会社として続けようと思ってやってきたというよりは、ただ地道にやってきた結果として今に至っているのだと思います。時には間違うことや失敗することもありますが、それに対してしっかり向き合い改善していくという当たり前のことを実直に積み重ねていく姿勢は、元請企業様からも評価していただいています。公共工事に関しては価格勝負なところがありますが、役所の担当者さんからも「堺土建とは仕事がスムーズに進められる」と言ってもらえる関係性を構築できています。
堺土建株式会社 常務取締役 管理本部長 下川 悦司氏
社長の代替わりをきっかけに「現状維持」から「売上拡大」へ
同社は、採用及び人材育成にも注力しており、毎年2〜3名の新卒社員が入社している。また、新卒採用だけでなく再雇用も積極的に行い、現在の社員の平均年齢は45〜46歳だ。
下川さん: 20年前は自分と同じ30代の人が多かった。一時期採用に苦戦して若手社員が減少していったので、5年前くらいから採用を強化することに。それまでは採用サイトに求人情報を掲載していただけでしたが、専門学校などへの採用広報活動を行うようになってから徐々に成果が表れるようになってきました。今から約4年前、採用活動に一緒に取り組むメンバーも加わったことも大きいですね。今のように毎年新卒社員を採用できるようになったのも、いろんな人の力を合わせて取り組んだからこそ。自分だけではこのような成果は上げられなかったと思います。
また、同社は社員にとって居心地のよい会社を目指し、従来年間88日だった休日を、今は100日にまで増やすなど、福利厚生を充実させている。毎年8月31日に開催している社内BBQや地元の祭りの運営、草野球のチームなど、社員の親睦を深める場を複数設けている。
このような社員の働きやすさ、働きがいに注力するようになったのは、社長の代替わりがきっかけだった。最近では、設備投資などにも積極的に取り組んでいる。
賀川さん: 現社長になってから、社員一人ひとりが考えて行動できる自由度が増えました。個人に裁量が与えられるようになったことで社員側もそれを受け止めてくれて、結果的に組織としてうまく回っていると感じています。
以前は売上に対して「現状維持」だったのが「売上拡大」へ方向性が変わりました。今後も売上を拡大していきたいと考えています。
中長期を見据えた持続可能な企業体制を築くためには、売上拡大に比例して人を採用すればよいわけではない。多くの人材を抱えることは、経営不振に陥った場合には企業にとってリスクになることもあるからだ。だからこそ、同社は採用活動と並行して、現在の人員体制で社員の負担を少しでも減らせるよう効率化できるところは効率化しながら、自ら意思決定して仕事を進められるような人材育成に取り組んでいきたいという。
自走できる人材を育成し売上を伸ばすために、ANDPADを導入
社員一人ひとりが自ら意思決定して仕事が進められるような組織を目指す同社にとって、人材育成においてスピードアップを図る必要性があると感じているという。
下川さん: 現在、当社の事業領域は建築と土木の大きく2つに分かれています。建築領域においては新築と改築に担当分けをしていますが、敢えて公共工事と民間工事は分けていません。土木・建築、新築・改修、民間・公共といった各領域での経験や知見を積んでほしいので、意図的に配置換えも行っています。
しかし、そこで問題となるのが「知の共有」だ。新築ひとつをとっても、工事規模だけでも小規模だと200〜300平米、大規模になると6,000平米とかなり幅広い。これだけ多岐にわたる領域を経験するとなると、インプットするだけでも大変な分量になってくる。従来はベテラン社員から若手社員へと口頭で伝える文化だったこともあり、情報を100%共有できない状態だったという。現在よりも世の中が求めるスピードがゆったりとしていた当時は、覚えるまでしっかりと時間をかけてサポートすることができたし、失敗してもそこまで責められることもなかった。しかし、今はそうも言っていられない。早く仕事を覚えることが求められ、失敗は許されない風潮だからこそ、業務の標準化が必要だという。
下川さん: 歴史のある会社なので、工事に関するノウハウやナレッジについては今までの蓄積があるように思われがちですが、実際のところは西嶋など古くからいる社員の記憶や感覚に頼っている状態でした。若手社員は分からないことがあればベテラン社員に質問しますが、人によって回答も微妙に異なったりする。そうなると若手社員としては余計に迷ってしまいます。
若手育成の観点で言えば、今必要なのは業務の標準化です。若手が仕事を進めていくなかで迷うことや困ること、あるいは抜け漏れに気づけず後々ミスに繋がってしまうことはたくさんある。それらは「標準」があることによって防げたり、回避できたりするはずです。ベテランからすれば「現場によって状況も違うし、標準化なんてできないですよ」という意見も当然上がるし、「これが絶対的な標準で、この通りやれば正解だ」というものが存在しないのはもちろん理解しています。でも何かしら「標準らしきもの」はあるはず。ANDPADのようにあらゆる工事情報を蓄積していくことで、その「標準らしきもの」が見えてくるのではないかと考えています。今後5〜10年かけて業務の標準化に取り組んでいきたいですね。
会議をするならみんなで集まって対面で、というやり方が根付いている同社。会議のための資料作成・印刷など、忙しいなかでさらに作業量が増えてしまうといった場面も多く、課題に感じていたという。
下川さん: IT会社がデジタルツールを使って情報共有をするというのは一般的なことかもしれません。しかし、われわれのような会社では、紙文化や、みんなで集まる会議体が今もまだ根付いています。なにか情報共有の必要があれば会議が開かれ、会議に向けて資料づくりに時間が割かれます。もともと忙しいのに、自分たちで自分たちをどんどん忙しくしてしまっているという状況です。
理想で言えば「わざわざ情報蓄積のために作業時間をかけることなく、日々流れていく業務のなかで情報が自然と蓄積されて、それが見たい時に見られるという状況」を求めたい。しかし現状では個人の中に閉じてしまっている情報も多く、その人がいなくなった時のフォローや引き継ぎなどにも課題がありました。情報共有のための作業自体は減らしながら、リアルタイムに情報が蓄積され、引き出せるようなツールが必要だったのです。
若手育成のスピードアップと作業の効率化に課題を感じていた同社。事務作業等にかかる時間を削減し、社員一人ひとりの意思決定の精度を高めて売上を伸ばしていく、そのためにはデジタル化が必要であると考え、2021年にANDPADを導入した。
下川さん: デジタル化の目的を一言で言うなら、「楽になりたい」ということでしょうか。最低限の事務作業などはもちろん必要だと思いますが、二度手間、三度手間になるような書類作成など、無駄な作業は極力減らしていきたいと考えています。日々は決断の連続です。各人の決断の精度を上げて売上を伸ばしていくためにも、そしてこれ以上みんなの負担を増やさず個人の時間を大事にしていくためにも、より効率を上げていかなければいけません。マンパワーでは限界がありますから、デジタルを活用して業務効率を上げていくのが最善策だと考え、ANDPAD導入を決めました。
効率的な知の共有による人材育成のスピードアップと、そもそもの作業量を減らし業務効率化を図るためにANDPADを導入した同社。後編では、具体的にANDPAD運用浸透における取り組み、「ANDPAD図面」及び「ANDPAD黒板」の活用による業務変化について深掘りしていく。
URL | https://sakaidoken.co.jp/ |
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代表者 | 代表取締役 下川 好隆 |
創業 | 1926年5月15日 |
所在地 | 〒593-8321 大阪府堺市西区宮下町12-1 |