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大工が社員の“3分の1”を占める地域密着の工務店。若手大工の育成・定着を実現した秘訣とは

〜前編〜地域に開かれた工務店と「IKEDA隊長」の活動に迫る

少子高齢化の進行により、建設業界の担い手不足に歯止めがかからない状態が続いている。総務省が発表した国勢調査によると、2020年の「大工」の人口は約29万8000人。40年前の1980年の大工就業者が約94万7000人だったのと比較すると、約3分の1の水準まで落ち込んでいる。さらに20年時点で大工の約43%が60歳以上と高齢化は著しく、2040年には就業者が10万人を切るとの見通しも*。新築・リフォームともに「大工不足のために着工できない」といった未来が差し迫る危機的状況だ。

*出典:大工が20年で半減 若者敬遠、住宅修繕の停滞懸念. 日本経済新聞. 2023-03-26. 日本経済新聞 電子版, https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUD24AY00U3A220C2000000/(参照 2023-11-29)


「大工就業者数の推移」(国土交通省)(https://www1.mlit.go.jp:8088/jutakukentiku/house/content/001581926.pdf )を加工して作成

この現状を変えるべく、岡庭建設株式会社は15年ほど前から「大工の社員化」に取り組んでいる。同社は、建設キャリアアップシステム(CCUS)を活用した独自の評価制度の構築、職業訓練校との連携など、先進的な試みに次々とチャレンジ。未来を担う大工が着実に成長し、会社に定着する仕組みをつくり上げている。

今回は、岡庭建設株式会社の専務取締役として工務店経営や設計に携わりながら、さまざまな業界団体に所属して、官公庁への提言も行う池田浩和さんにインタビューを実施。前編では、同社の家づくりへのこだわりを軸に、池田さんが「地域のため・業界のため」に続けている社会活動や情報発信の取り組みについて紹介していく。

池田 浩和 氏
岡庭建設株式会社 専務取締役
同社の設計に主に携わり、太陽熱、長寿命、木を活かしたエコ住宅を手がける。2010年グッドデザイン賞、2015年キッズデザイン賞、2016年ウッドデザイン賞受賞。JBN・全国工務店協会副会長、東京家づくり工務店の会理事、全木協東京都協会会長他、工務店団体の役員も務める。

INDEX


人と環境に優しい家を“みんな”でつくる地域に根ざした工務店

岡庭建設株式会社は、東京都西東京市に本社を置く地域密着型の工務店だ。注文住宅・規格型住宅の建築事業を中心に、アフターメンテナンス事業、リフォーム・リノベーション事業、中古住宅の買取再販事業、不動産仲介事業、賃貸管理事業、空き家の利活用事業など、住まいに関わる事業をワンストップで提供している。まずは、池田さんが同社に入社した経緯について伺った。

池田さん: 若いころから建築物を見るのが好きだったので、インテリアデザイン系の専門学校で学んだのち設計事務所に就職しました。その事務所で一緒に働いていたのが、当社の会長の長女であり、私の妻なんです。結婚後もしばらくは他の設計事務所で働いていたのですが、「環境に優しい家づくりにチャレンジしたい」という会長の想いを受けて、当社への入社を決めました。当時はまだ家族4人で経営していた小さな工務店でしたね。その後、2008年に会長が一線を退き、妻の弟が社長に、私は専務に就任し、事業を引き継ぎました。現在の社員数は約40名、その3分の1が社員大工です。

岡庭建設株式会社 専務取締役 池田 浩和 氏

同社では、「みんなでつくるいえ、みんなでまもるいえ」をコンセプトに掲げ、住まい手とつくり手が一体となったより良い家づくりを目指している。注文住宅、規格型住宅、中古住宅のリノベーションなど、住宅のスタイルはさまざまだが、共通しているのは“安心して暮らせる住まい”であること。同社は、長期優良住宅に準ずる仕様を全棟に採用し、家づくりに用いる素材は環境と健康に配慮したものを厳選している。自然素材や無垢材の特性を活かして、高性能な住まいをつくり上げられる社員大工がいることも同社の大きな強みとなっている。

同社に入社後、池田さんが設計を手がけた新築住宅を創業50周年を機にリノベーション。サスティナブル&レジリエンスをテーマに、再生可能エネルギーを活用したエコで快適な暮らしが体験できるモデルルーム「ふじまちテラス」へと生まれ変わらせた。性能向上リノベデザインアワード2022 選考委員賞 受賞。

池田さん: 当社の会長はもともと大工でした。私が入社した当時はまだ会長も現場に出ていて、手刻みで木材を加工していましたね。大工の技能を最大限に活かして、木の心地良さや人の手の温もりを感じられる家をつくる文化は、私たちの代になっても大事に受け継いでいます。

地域で50年以上家づくりに携わらせていただいている工務店ですから、地域のみなさんにはずっと健康で幸せでいてほしいと願っています。そんな思いから、当社では人工建材は使わず、自然素材を操れる設計力・施工力を磨き続けています。また、永く住み継いでいくためのメンテナンスや、家族構成が変わったときの売却にも対応できる不動産事業も展開し、地域のお客様をワンストップでサポートしています。

池田さんは前職の設計事務所に勤めていた当時、雑誌に掲載されるような大手ゼネコンの大規模プロジェクトに携わっていたという。RC造やS造の設計を得意としていた池田さんだが、木造建築の工務店に入社したときにギャップは感じなかったのだろうか。

池田さん: それなりの自信を持って入社したのですが、実際に家づくりに携わってみると、設計の意図が職人さんや施工管理担当者に伝わらなかったり、大工さんが出したアイデアの方が納まりが良かったりして、「設計は現場でこんなにも無力なのか」とショックを受けましたね。木造住宅を形にしていくためには、大工さんや職人さんの動きや視点を理解した上で、現場が柔軟にコントロールできる図面を描く必要があると痛感しました。

設計者が「この図面の通りにやれ、言うことを聞け」と言っていては、現場を知り尽くしている職人さんからの意見が出づらくなります。設計も現場監督も大工も、全員の意見を大事にして家づくりをしていこうというのが、「みんなでつくるいえ」のコンセプトにも込められています。

池田さん: ただ、地域に根ざして家づくりをする上で、住宅の安全性については設計者がリードしなければならないと考えています。当社では、20年ほど前から長期優良住宅に準ずる仕様で家を建てています。耐震性を精緻に検証するためにも、全棟で許容応力度計算も実施しています。基礎については、SAREX(住環境価値向上事業協同組合)が実施している基礎コンクリート品質試験を受けています。自分たちが自信を持てる家づくりをするためにも欠かせない取り組みです。

2025年4月に施行される4号特例の縮小にともなって、許容応力度計算が必要になる物件が飛躍的に増えることが予想されている。同社のように構造計算の内製化が図れていない場合、対応に苦慮する地域工務店も少なくないだろう。

池田さん: 4号特例の縮小に加え、インボイス制度の開始やアスベスト法の改正など、工務店が対応しなければならない業務はどんどん増えています。自社ですべてに対応するのは難しいですから、構造計算や補助金申請などは専門家に外注してもいいと思います。今は、外注できる業務を整理して全体をプロデュースする能力が求められる時代です。私たちも少しずつお付き合いできる方々を増やしています。


業界団体との関わりをきっかけに、社会活動や情報発信に取り組むように

同社の経営を担いつつ一級建築士として設計にも携わっている池田さん。そんな池田さんは、地域工務店約3,000社が登録する全国組織「一般社団法人JBN(Japan Building Network)・全国工務店協会」の副会長も務めている。JBNのほかにも、さまざまな業界団体やワーキンググループに所属し、国や地方自治体との意見交換や政策提言などを行う活動を続けている。同じ志を持つ仲間と協働し、業界の活性化・地域貢献を目指す池田さんだが、こうした活動を行うようになったきっかけは何だったのだろうか。

池田さん: 2005年に構造計算書偽造問題(通称:姉歯事件)が起こり、建設業界全体の信頼が大きく揺らぎました。この事件を受け、当時確認申請などの改正案がパブリックコメントに公開されましたが、私はその内容を確認して「これでは根本的な解決にならない」と思い、国土交通省に長文の意見書を送ったのです。

私のその行動を知ったとある工務店仲間の方が、「それならSAREXの青木会長と気が合うだろう」ということで、SAREXの集まりで株式会社青木工務店(神奈川県大和市)の青木宏之会長と引き合わせてくれました。青木会長は、国土交通省の社会資本整備審議会の委員として姉歯事件の解決に動いていた方です。そこで私が国土交通省に意見書を提出した話をしたところ、「パブリックコメントに意見を送る工務店なんて珍しい」と驚かれ、それ以降SAREXの会合に頻繁に呼ばれるようになったんです。

池田さん: SAREXは、国土交通省からのヒアリングにも対応している組織なので、国の方針や業界の最新情報をいち早く得ることができました。この環境を活かし、「全国工務店の声を国政へ届けられる組織をつくろう」と青木会長が立ち上げたのがJBNです。私が地域工務店の存在感を高める活動や人材育成に取り組む原点には、SAREXやJBNとの出会いがあるのです。

池田さんは建設業界全体に働きかけていく活動に加え、「岡庭建設のIKEDA隊長」として積極的に情報発信も行っている。20年以上前にスタートしたブログ「IKEDA’S BLOG」は、現在自社HPの「IKEDA隊長コラム」として継続しており、2020年にはYouTubeチャンネル「家づくり&家まもりの情報箱_IKEDA隊長チャンネル」も開設している。近年コンテンツマーケティングの重要性が叫ばれているが、池田さんは20年以上も前から情報発信に取り組んできたのだ。この活動にも「SAREXとの関わりが大きく影響している」と池田さんは語る。

自社HPの「IKEDA隊長コラム」(画像左)、YouTubeチャンネル「家づくり&家まもりの情報箱_IKEDA隊長チャンネル」(画像右)

池田さん: 地域工務店による情報発信も、SAREXが時代に先駆けて行ってきた取り組みだったと思います。当時は、ホームページを持たない工務店も多い時代でしたが、SAREXの専務理事を務める株式会社オプコード研究所の野辺さん(東京都世田谷区)が「工務店もホームページを持とう」「ブログやコラムを書いて工務店の考えを伝えていこう」と呼びかけていました。SAREXでは、情報発信への意欲が高まるように「工務店ブログ大賞」も当時創設されました。こうした働きかけが、工務店が積極的に情報を発信する流れを生んでいったのだと思います。

自分が得た情報を広く社会に伝えるためには、内容をきちんと理解した上で噛み砕いて表現することが求められます。私も長年情報発信を続けていますが、書くことで自分の中で情報が整理されますし、理解度も深まるのでお客様との会話でも役立っています。ブログやYouTubeは、自分自身を鍛えるツールになっていますね。


地域のお客様・協力会社にも最新情報やノウハウを積極的に提供

池田さんが仕掛ける情報発信の取り組みは、ブログやYouTubeだけにとどまらない。同社では、家づくりを検討している地域の方々に向けて「家づくり学校」を開講している。「家づくり学校」では、土地探しからアフターメンテナンスまで、同社が半世紀以上にわたって培ってきたノウハウを惜しみなく公開している。この「家づくり学校」を開講した意図について、池田さんに伺った。

池田さん: 当社は設計や施工管理、大工が主体となっている工務店で、営業スタッフがいません。ですから、当社の家づくりに対する想いを伝えることで、価値観の合うお客様との出会いの場を創りたいと思い、「家づくり学校」をはじめました。

多くの人にとって住宅購入は一生に一度しかない機会ですから、最初は何をどうすればいいか分からないと思います。自分がどんな家を建てたいかイメージが掴めないまま、とりあえず住宅展示場に行って「営業マンの感じが良かったから」「大手のハウスメーカーだから」と契約してしまうと、のちのち後悔することが出てくる可能性があります。

「大手だから大丈夫だと思ったのに住み始めてみたら家が揺れる」「メンテナンスに来てくれない」など、様々な相談が地域の方々から寄せられることもあります。こうした不安を未然に防ぎたいと思ったことも「家づくり学校」を続けている理由のひとつです。

池田さん: ​​最初の1年間は参加者が1〜2組という回もありましたが、徐々に参加者が増えて、常時5〜7組は来ていただけるようになりました。新型コロナウイルスの影響でオンラインでの開催に切り替えてからは、最大16組が参加してくださったこともありましたね。

「人が集まらないなら意味がない」とやめてしまうのは簡単ですが、私はやり続けることを大事にしてきました。15年間にわたって「家づくり学校」を継続してきた結果、のべ1,600名以上にご参加いただくことができ、集客にもつながっています。

同社は、地域住民だけではなく、協力会社への情報発信も大切にしている。2008年に結成した協力業者会「おかにわワークス」では、家づくりに関わる協力会社を集めて、定期的に勉強会を行っている。

池田さん: 私はもともと「下請け・下職」といった言葉があまり好きではありません。協力会社さんや職人さんは、いわば私たちのチームメイト。設計・施工管理・社員大工だけではなく、協力会社さんも一体となって家づくりに取り組めるように「おかにわワークス」を立ち上げました。

一人親方は、日々現場作業や事務処理に追われて多忙を極めているので、新しいことを勉強するのが難しいと思います。ですから、当社が最新の情報や技術を学ぶ機会を提供して、一緒に成長していけたらと考えています。SAREXやJBNの活動を通じて、建築に関わる人たちが集まって情報を共有したり、学び合ったりする場を作ることがとても大事だと感じました。当社でもそんな場を作りたいと思ったことも「おかにわワークス」を立ち上げた理由のひとつです。


おかにわワークスの会合の様子

大工として家づくりに携わってきた現会長の想いを引き継ぎ、木や自然素材にこだわった家づくり・リノベーションに取り組んでいる池田さん。2008年からは、地域に向けての「家づくり学校」、協力会社に向けての「おかにわワークス」といった取り組みを開始し、それぞれのコミュニティを活性化している。「地域の人々・建築業界で働く人々の幸せのために」――そんな強い想いが、池田さんの原動力になっている。

後編では、同じく2008年からスタートした「大工の社員化」に向けた取り組みについて詳しく紹介していく。

 

岡庭株式会社
URLhttps://www.okaniwa.jp/
代表者代表取締役 岡庭 伸行
創業1970年
本社〒202-0014 東京都西東京市富士町1-13-11
取材・編集:平賀豊麻
編集:原澤香織
執筆:保科美里
デザイン:森山人美、安里和幸
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