『10年後×日本の住宅業界、米国の住宅業界テクノロジー企業の動向から日本の住宅業界の今後を考える』というKeynoteセッションに、HOMMA.inc.・本間氏、慶応義塾大学教授、KMDW主宰・小林氏の2名にご登壇いただいた。前編では、本間氏に米国の住宅業界と日本の住宅業界違いを踏まえたHOMMAの世界観や、新しいプロダクト、テクノロジーについても伺いながら、スマートホームビルダーとスマートホームテクノロジーについてディスカッションした。
1997年にWebインテグレーションを行うイエルネット設立。 ピーアイエム株式会社(後にヤフージャパンに売却)の設立にも関わる。 2003年ソニー株式会社入社。ネット系事業戦略部門、リテール系新規事業開発等を経て、 2008年5月よりアメリカ西海岸に赴任。電子書籍事業の事業戦略に従事。 2012年2月楽天株式会社執行役員就任。退任後、シリコンバレーにてHOMMA, Inc.創業。
小林 博人 氏
建築家、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科教授
小林・槇デザインワークショップ(KMDW)主宰
Skidmore Owings and Merrill LLP(SOM)日本代表
京都大学、Harvard大学大学院にて、建築・都市デザインを学ぶ。1999-2000年フルブライト・ハーバード特別研究員、2003年ハーバード大学デザイン学博士号取得。同年小林・槇デザインワークショップ(KMDW)開設。2011-12年米国MIT客員准教授、 2012-13年カリフォルニア大学バークレー校客員研究員、2018年-慶應にてインテリジェントホーム・コンソーシアム主催
スマートホームビルダー
本間氏: まず、世の中の話から少しさせていただければと思うのですが、シリコンバレーは、例えばスマートフォンとかテスラといった非常に大きなイノベーションを起こしているのですが、何故か住宅だけはシリコンバレーにおいても100年前と変わらないという現状があります。アメリカはほとんどの住宅の取引が9割方中古で、新築はわずか11%しかなく、新陳代謝が良くないんですね。新築と言っても、8割方は建売住宅なので、未だに2×4の在来工法でつくっています。新築なのにデザインがクラシックで、しかもテクノロジーがこれだけ言われているのに、お客さんやってくださいということで、彼らは手放れよく安く建てて、早く高く売りたいっていうのがアメリカの建売業者のやり方。
もっと言うと、アメリカと日本の住宅は何が違うかというと、まず、日本は現場外施工とか工業化が進んでいて、所謂、インフィルというかユニットバスとかシステムキッチンみたいなものを工場でつくって、持っていってはめるだけ。建物もモジュール化、プレハブ化が進んでいます。一方で、アメリカは建物は今申し上げたとおりですが、バスもキッチンも現場で在来工法でつくっていて、品質のバラツキはできるし、ワーカーも足りなくなります。結局、日本の場合1年もあればつくれるという感覚だと思うのですが、アメリカだと平気で2〜3年かかってしまうので、ダブルローンで2、3年我慢できますかみたいな話になってしまう。だから注文住宅に手が出せないんですよ。結局、建売業者が建てて売れば良いので、R&Dの必要なく、テクノロジーの進化がなかなか進んでいない、珍しい分野なのです。
一つ着目するべきは、日本は少子高齢化で住宅の着工件数が減っていっているなかで、アメリカはまだ人口が増え続けているので、家が足りないんですね。この市場って実はわずか11%と言いながら、20兆円を超えている市場なので、ここをまずどうにかしたいというのがわれわれの事業の背景にあります。
本間氏: われわれはスマートホームビルダーと言っているのですが、要は2つのことを一つの会社でやっています。ホームビルダーとして我々も土地を取得して設計をして家を建てて売るという、非常にクラシックなビジネスモデルでやっています。片や自社開発で家をスマート化するためのソフトウェア開発もやっているので、ハードとソフトを両方やる垂直統合をやろうとしています。
現状、住宅を見てみると、家を建てる人と家のなかのスマート化、ソフトウェアをやる人は別の会社になっているので、これを一つのプロダクトとしてまとめて垂直統合したい、これがわれわれの考え方です。現在、われわれが知る限り、こんなアプローチしているのは日米含めて多分ないと思います。っていうのは、非常に大変だからっていう理由があるんですけど。
ただ、われわれが目指しているのは、ただ家をつくってスマートにすればよいということではなくて、暮らす人の目線で考えられたスマートタウンをつくりたい。今のスマートシティと言われているものは、どちらかと言えば企業目線で、データが取りたいとか実験をしたいとかそういうものが多いですが、われわれはあくまで人間が主役。自然豊かななかで一つひとつがスマートな住宅で、これが集まってくるとスマートな街になって、街全体がコネクテッドになると。あくまでテクノロジーは裏側から暮らす人を支えているということで、本当にヒューマンセントリックなスマートな街をつくりたいというのが、われわれの中長期的なビジョンです。
本間氏: 4、5年前に100軒つくったらそういう街ができるっていうことで、「HOMMA100(ワンハンドレッド)」って名付けました。スタートアップではゴールを決めてそこに走っていくバックキャスティングをやるので、こういうマスタープランっていうのをつくって、100軒売るためにはその前に10軒、10軒の前は1軒、スタートは0ということで、0から100をつくろうというのが「HOMMA ZERO」です。
最初はシリコンバレーに築50年の住宅を買い取ってフルリモデルして、そこに当時最新のテクノロジーをインストールした家をつくり、そこをオフィス兼ラボにしました。失敗もたくさんありましたが、そこで学んだことで0から1をつくろうっていうことで「HOMMA ONE」という新築住宅を0からつくりました。これが完成して、次は1から10をつくろうということで、「HOMMA ONE」をやりながら「HOMMA X(ten)」をスタートさせて、2021年後半に完成予定です。
「HOMMA ONE」のポイントは、極めてモダンなデザインで、そこにテクノロジーを全部ビルドインしてスマートホームな家をつくったと。もう一方で、いろいろな日本の会社さんとコラボレーションしています。「HOMMA ONE」はコロナ禍以前に設計をしたのですが、例えばベッドルームにワークスペースをつくってビデオ会議入りやすくしたり、リビングスペースの横にワークスペースをつくって仕事と家事をいつでも行ったり来たりできるようにしたり。あとはエントランスの横にもう1枚ドアをつくって、それがゲストルームに直接出入りできるようになっていて、例えばスマートロックで完全にコンタクトレスでAirbnbが運営できたり。シリコンバレーにあるさまざまな住宅を訪問して回りながら、これからこうなりますよと提示していたものが、結果的にニューノーマルと言われるようになりました。
本間氏: あくまで「HOMMA ONE」は実験ではありますが、結局、われわれ始めた時はNice to haveだったものが、日本の企業がコロナ禍でDXが進んだように、Essencialになっていったということです。
そして、「HOMMA X(ten)」っていうのをスタートさせて、オレゴン州のポートランドの都心から割と近いところに土地を買って、自分たちで0から家をつくりました。ポイントは、都市型なのでどコンパクトな住宅にしたこと。若い方って都心に近いところに住まわれたいんだけどお金の問題とかポーダビリティの問題があるので、都心に近いところの高い土地ってなかなか1人で住むって大変なんですね。
だから住居のサイズを小さくしました。ただし、小さいからといって狭いでは困るので、小さくても広く感じられるような空間デザインに。あと、小さいから安いではなくて、デザインはモダンで、スマートホームをビルドインして、若い方でも買いやすいんだけどいいプレミアム感があるみたいなところを目指してつくりました。
ーーまさに日本のハウスメーカーさんもやられているような手法がたくさんあると思うんですけど、日本のライフスタイルとアメリカのライフスタイルで、敢えてアメリカだからこうしたみたいなプランニングはあるのでしょうか。
本間氏: 敢えてアメリカに持ち込んだという意味で言うと、日本式のお風呂を入れました。アメリカのお風呂は浅いバスタブの上にシャワーが付いてるのがスタンダードですが、われわれは深めのバスタブに洗い場を横につくって部屋全体をお風呂場にしたので、これでコロナ禍で家で過ごす時間が長くなったっていう時に、ゆっくりバスタイムを楽しめるようにしましょうという提案をしました。
われわれは日本推しではなくて、敢えてそこは出さずに、聞かれたら「実は日本の精神や考え方が裏側にあります」とか、「実は日本は狭小住宅というのがありまして」というように、うまくアメリカでは活用しています。
本間 毅 氏
ーーある意味日本ではスタンダードだったものも、ある程度アメリカで受け入れられやすくなっているというところも、ある程度先回りして見越してやっていってる感じですね。建築家として小林様はいかがでしょうか。
小林氏: アメリカの事情を知りつつ、そこにこれからの新しい住宅をつくっていくというチャレンジって、もっとたくさんの人がしているかと言うと、そうでもないんですよね。住み手の気持ちになってつくるっていうこともそう。そのポイントをきちっとテクノロジーでサポートしながらつくられているのは、とても共感できます。
小林 博人 氏
スマートホームテクノロジー
本間氏: ちょっとここからギアを変えまして、スマートホームテクノロジーについて、テクノロジーとは何かという話をさせていただきます。
今のスマートホームは何が問題かというと、一つは、いろいろなITデバイスを家のなかに入れられるんですけれども、一つのメーカーが違うとそれぞれ専用アプリをスマホに入れなければならないので、デバイスを増やしていけばいくほど、いろいろなアプリが自分のスマホに入ってきて、それをいちいち開いて操作しなければならず、非常に面倒くさい。
そこで、スマートスピーカーでやれば一つにまとまりますが、一つのデバイスにつき1回ずつスマートスピーカーとも連動しなきゃいけないのも面倒くさくて、全然スマートじゃない。だから、単なるコネクテッドというだけで、本当に使いやすいのかというのが現状の問題なのです。
本間氏: それに対して何をやったかというと、まず一つの統合プラットフォームで複数のデバイスをそこにまとめられるようにして、アプリも一つ、IDも一つ、スマートスピーカーの連携も1回というのをつくりました。それだけだとスマホと変わらないので、われわれも専用アプリをつくっていますが、あくまでそれは補助手段にしています。
スマートオーケストレーションと呼んでいるのですが、一つのデバイスが何かを感知すると、それに合わせて他のデバイスが同時にいろいろなことをしてくれるものです。スマホを取り出さなくても、スピーカーに話しかけていなくても、人間として動いているだけで単純に全てのものがコネクテッドになっていくよう、アルゴリズムといいますか、連動させる設定をしているのです。できればUIのないスマートホームをつくりたい。言うなれば住宅の“自動運転”ですね。
われわれの考え方としては、住宅そのものを大きなコネクテッドデバイサーと捉えて、そのデバイスが何をしてくれるのかということであって、大事なのはこのテクノロジーがあるということよりも、テクノロジーがくる前提で設定も施工もできるので、完成度の高い家ができるのです。
ーービルダー的な観点で、逆の言い方をすると、通常だと家を新築した後、リフォームは安いところにお願いすればいいというのがあって、同じ施工者さんがやれていないことが多いですが、そこまでフルパッケージ化されていると、ほかのところに頼むとぐちゃぐちゃになるので、またHOMMAに頼む世界になりますよね。ある意味、家主さんのHOMMAに対するスティッキネスが高まっていくビジネスモデルでもありますね。
本間氏: そういう意味で言うと、われわれは家を建てて終わりだとは思っていなくて、建てた後のお客様との継続的な関係をベースとしたさまざまなサービスビジネスを今考えています。
今井: 面白いですね、非住宅の領域だと、それを全部デジタルツインにしてBIMのなかで管理していこうとになりますよね。どちらかと言うとHOMMAの場合は、ハードはハードで図面はありますが、1個1個の壊れやすいというか、住宅と比べるとライフスパンが短いものが全部IoTで繋がっているからこそ、常に何か不具合が起きたときに替えられるという、所謂、デベロッパーさんがやられている維持管理とは違うアプローチなのですね。
今井亮介
本間氏: よりお客様の目線に近いところ、直接触れられるところで何かサービスをすることも可能です。あと、もう一つですね、このテクノロジーの部分をライセンスとしてスマートホームOSみたいな形でビルダーさんに提供していくということも始めていこうとしています。日本で何かお役に立てないかと考えた時に、新型コロナウイルスの影響でリモートワークがかなり普及してきたなかで、ワーケーションみたいなことも考えていかれる方も多いんですけど、要は住む場所と仕事をリンクさせなくても良くなったので、どこにいても仕事のできる方が一定層できたわけですね。
こういう方々が日本の地方都市に行っても、あまりいい家がないとか住みたい場所がないということになるので、われわれのアメリカでの住宅およびテクノロジーの知見を活かして、日本の地方都市の風光明媚で豊かな生活環境があるところに、最先端のテクノロジーとモダンなデザインを持ち込んで、日本のパートナーさんと一緒にスマートな村をつくろうと。これをやると地方都市もそうですし、生活される方とか、その方を雇用されている企業にとっても新しい価値が生まれてくるので、これをテクノロジーとコミュニティの観点でどのようにつくっていくか、今まさにチャレンジしている最中です。
ーーOSの方はご提供という話でしたが、ビルディングの方はHOMMAでやられるのでしょうか。
本間氏: われわれのフィールドは主にアメリカですし、どちらかと言うと日本のなかでいろいろなプレーヤーの方がいらっしゃるので、その方々とコラボレーション、パートナーシップを組ませていただいてやるという感じですね。
今井: 本間様がアプローチされてきたIoT的なお話であったり、OSだったりと、ITをどのように住宅にインストールされてきたのかという貴重なお話の数々ありがとうございました。
本セッションで参加者から頂いた質問
参加者: 「日本のユニット型設備商品(キッチン、バス、洗面、トイレ)は、アメリカで製造拠点を置けば売れますでしょうか、ニーズはあるのでしょうか?」
「アメリカなどの先進国の住宅事情では、日本のユニット型住宅設備販売は可能なのでしょうか?
生産拠点はその販売拠点に置く必要はあると思いますが」
本間氏からの回答: 「私個人としてはニーズはあると考えており、故に日本のメーカーさんとのお話を続けておりますが、現地のContractorは新しいプロダクト、経験のないものを使いたがらない傾向がありますので、その教育から初めて啓蒙活動を行いながら、市場を開拓していく必要があります。ですので、持っていけば即売れるというたぐいのものではなく、市場を切り開いていく必要があります。
また、排水の仕組みの違いなどもあり、かつ各州が課している節水基準を満たす必要もあり、さまざまな認証を獲得する必要があります(素材や製造責任等)。すでにTOTOさんはジョージア州に工場を持ち、トイレタリー製品を製造販売されているので、道はあると思います。」
URL | https://www.hom.ma/ |
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URL | https://www.kmdw.com/ |
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