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〜前編〜デジタルファブリケーションですべての人を「設計者」に

「生きる」と「つくる」がつながる社会にするために、すべての人を 「設計者」にすることをミッションに掲げ、デジタルテクノロジーによって建築産業の変革を目指す設計集団、VUILD株式会社。3D木材加工機「ShopBot」を日本に導入し、2019年4月には家具づくりをすべての人に開放するサービス「EMARF(エマーフ)」をスタートさせるなど、デジタルファブリケーションを先導している存在だ。2019年10月に竣工した『まれびとの家』は2020年のグッドデザイン賞金賞をはじめとするさまざまな賞を受賞し、業界内外で注目を集めている。今回は同社の代表取締役・秋吉浩気氏にインタビューを実施。前編では従来の設計事務所と一線を画す同社の活動やデジタルファブリケーションの取り組み、現在進行中のプロジェクトや今後の展望について伺った。

秋吉 浩気 氏
VUILD株式会社 代表取締役

従来の設計事務所との違い

―貴社は従来の設計事務所とは異なる枠組みで活動されていると思いますが、その違いを具体的に教えていただけますでしょうか。どうしてこのようなポジションを築いていこうと考えたのでしょうか。

基本的に設計事務所というものは、お施主様からのご依頼に対して建築設計というソリューションで応えていくというもので、かかわるのはデザインのみでモノづくりの工程に踏み込むということはありません。

アトリエ系設計事務所の場合は、潤沢な予算をもつお施主様へのオーダーメイドというものですが、そうではない層への届け方もデザインしているというのが重要だと考えています。そこで、3D木材加工機「ShopBot」の製造拠点を64箇所提携し、なおかつそれを使っていただくためのソフト開発も行っています。

単純に建物を建てたら終わりではなく、建物を建てるにあたり必要な材料、人材、場所といった設計・施工の外側にある生産・流通までデザインしています。これは、従来の設計領域は設計料10%の範囲内の設計・監理部分しか影響力がなかったところを、その周囲にある必要な材料、人材、場所といった設計・施工の外側の生産・流通も含めて100%しっかりとデザインしているということで、従来の設計事務所とはデザインしている射程が異なります。設計・監理で終わりではなく、流通のプラットフォームに乗った同じ土俵でどこまでボールを遠くに飛ばせるかということに取り組んでいます。


プロダクトデザインとの線引き

―プロダクトデザインに近い考え方だと思いますが、スケールの違いはあるにせよ、そことの線引きについてはどのようにお考えでしょうか。

住宅や建築物はパーツ数も関わる人も多く、地域性もあります。主体構造としての建築の骨組みの部分を分散型にして地元の材料を使えば、流通、環境、経済に与えるインパクトは結構大きい。流通を最小限にすればするほど、同時に一個のモノを動かしたりつくったりするインパクトも最小化できるという意味では、プロダクトをつくるよりも地域に関わる範囲が大きく変わってくると考えています。

デジタルファブリケーションはかなり小回りが利くので、都市部に中央集約化された近代的な家づくりの仕組みと比べると、現場で調達して現場でつくるという昔ながらの大工文化が根付いているローカルエリアに接続しやすい。つまり、従来型の建設プロセスと比較して、地域経済にインパクトをもたらせるんじゃないかなと。

VUILD株式会社 代表取締役 秋吉 浩気 氏

―まさに3Dプリンタやレーザー加工機などの工作機械を備えた、一般市民のためのオープンな工房「ファブラボ(※1)(fabrication laboratory)」の世界とも共通していますね。秋吉さんのような思想をもつ建築家はグローバルでも増えているのでしょうか。

ファブラボで世界中の方々との交流のなかで見えてきた視点でもあって、グローバルにデジタルファブリケーションという共通の基盤が行き届いたことをきっかけに、それぞれのローカリティとどう接続して一番効用を発揮できるのかについて、各国の独自のコンテクストでそれぞれ模索しています。

2008年以降のファブラボの動きは、比較的エンジニアが頑張って開拓してきたという形で、あまりデザイナーや建築家がコミットしていなかった。そして、生産インフラが民主化されてからは設計の民主化がテーマとなり、ロボットで施工する建築工法をつくるために、ようやく日本でも当社が販売から導入支援事業を行っているCNC(※2)ルーターのShopBotを使い始めるケースも増えてきました。

VUILDの工場内で稼働するShopBot

ホームセンターのカインズさんもShopBotを6台導入しており、全国で約70箇所の製造拠点はあるものの、デザインデータの作成方法や発送方法などがわからないという声が多い。当社ではテンプレートとなる住宅のアプリをつくったり、まずはデザイナーに向けてインフラを使ってもらえるように地道にサポートしているところ。今後100台くらいになってくればいろいろな人がアクセスするようになってくると思うので、そうなってはじめて次の新しい家のつくり方としてファブラボのようなオープンスペースが開放されているだけでなく、デザインのツールと方法論が付与できるのではないかと考えています。

「まれびとの家」

―では、貴社の代表作である富山県の利賀村(とがむら)の「まれびとの家」はShopBotを導入して木材流通すべてを地域内で完結することを試みた建築物になりますが、ローカリティとファブラボの世界の交差点というところで実験的につくられたという位置付けでしょうか?

元々活動を始めた時から、一般の方々にデータのつくり方を教えたり、素人がスケッチした絵をどう成立させるのかというサポートをしてきたのですが、インフラが整って何人か使える人が増えただけでは一般的に普及しないなと。家具や内装の事例はサポートすればイメージが湧くものの、住宅など規模感の大きいものになると誰もやろうとしないので、それであれば自分たちで手を動かしてデザインしようということでつくったのが「まれびとの家」です。利賀村の方々にデザインから提案して興味をもっていただいたものの、お金の話が出るとプロジェクトが始まらないと思ったので、設計料などの話は一切せずに新規事業投資として捉え、建築費はクラウドファンディングで回収すれば最低限の実績にはなると考え、まずはつくってみたという感じです。

越中五箇山の一部、富山県南西部にある南砺市利賀村につくられた「まれびとの家」

―実際にクラウドファンディングにも成功し、グッドデザイン金賞受賞やSDレビュー入選などを経て、VUILDとしての世界観や取り巻く環境には変化はありましたか。

そうですね。特に昨年のグッドデザイン賞のファイナリストまでいったことで注目度が増して、たくさんの方々に知っていただく機会になりました。建築業界内でいうと、SDレビュー入選や、Under 35 Architects exhibition(35歳以下の若手建築家による建築の展覧会)でGold Medal賞をいただいたことも大きかったですね。

グッドデザイン賞のプレゼンテーションでは、社会性という観点で、生産流通から全部洗い直して半径10km圏内でそれぞれ持ち合いでつくる、従来の木造建築にはない新しい家づくりの在り方を紹介しました。「まれびとの家」という一つの切り口で、サーキュラーエコノミー(※3)や、デジタルファブリケーション、林業の観点でも話せるなど、地域の方と関わることができる範囲は大きく、それぞれの場に応じてテーマをつくれるので、単にデジタルファブリケーションでつくったというのではなく、デザインとしてもわかりやすく、シンプルなものになっています。グッドデザイン賞では、このサーキュラーエコノミーや新しい価値観を高く評価していただいたと思っています。



―こうした経験を経て、最近進行しているプロジェクトについて教えていただけますか。

建築では、規模や素材、形状などどんどん領域の幅を広げていきたいと考えています。大型の加工機を取り入れて模索しているのですが、代表的なものとしては今年9月に着工予定の東京学芸大学内の教育インキュベーション施設のプロジェクトがあります。

通常、自由曲面の複雑な建築物をつくる場合には現場施工が必要になりますが、それをモジュール化し、プレハブ化して組み立てていくとデータ通りに型枠が立ち上がります。極端に言えば、機械で削る時に平らだろうが湾曲していようが面積が同じだったらコストや加工する時間はほとんど変わらない。デジタルファブリケーションをベースにすることで、かなり複雑な形状のデザインが可能になります。今回はかなり波打ったシェルにして構造強度を上げて、コンクリートは90㎜の厚みに。それによって、コンクリート量と型枠を組む工数が最小限になるだけでなく、内装仕上げになる捨て型枠で木材のゴミも出さず、最小限の材料で最大限のパフォーマンスを上げることを目指しています。

―意匠の自由度を担保した上で、材料、製造、施工におけるコストを下げることができるということですね。

そのとおりです。申請上はRC造になりますが、本当の構造という意味ではハイブリッドで、RCに何かあっても厚みのある木材がバッファとして機能します。意匠的な観点でも、内装側の型枠は残して外側だけがRCになっているという構成です。やっていることはかなり複雑に見えますが、このように型枠の利用方法を考えることで、自分たちが木造でやっている規模感や材料に対する訴求性だけでなく、RC造を手掛けている方々に対しても何か一緒に取り組める領域を広げていきたいですね。

―そのレベルになると、なかなか構造解析ソフトでサクッと解析するのが難しそうなイメージですが、いかがでしょうか。

最近の若手の構造設計事務所はGrasshopper(※4)を使っている人も多く、それに構造解析ツールを合わせて結果を見せられるようにしていますね。設計士と構造設計士がやりとりをする場合、通常の工程の流れであれば基本設計後に構造解析を依頼し、その結果を基に設計変更する流れになるので、構造解析部分が少し良くなる程度なのですが、全て同じプラットフォーム内でみんなが同じツールを使っていれば、形やデザインが更新されていく度に構造解析から環境シミュレーション、積算やファブリケーションの歩留まりなどを逐一アップデートさせることができるはず。設計から施工まで全部デジタルで一貫していれば、追加・変更を繰り返しながら効率的に進められる方法はあると思います。



木造デジタルファブリケーションの可能性と今後の展望

―では、木造デジタルファブリケーションの可能性と今後の展望についてはどのようにお考えでしょうか。

今後、木造建築物はどんどん増えていくと思いますね。特に海外ではパリ協定によってエコロジーに配慮してどのように再利用していくかという流れになっているなかで、木材はマッチしやすい。住宅領域はシステマティックに規格化されているためそれを使えばできると思うのですが、今後住宅以外の領域が増えてくるとなった時に、規格品がなくても規格品を使うのと同じくらいのフットワークの軽さで、部品が特注で簡単に加工できるというインフラをつくってあげれば、スムーズに参入することができるはず。今まさに、その受け皿をつくろうとしています。



―再利用というところは先程の型枠の話はわかりやすかったのですが、一回つくったものを再利用するというのは、解体する際に接合部を剥がしやすくするということでしょうか。

そうですね。今後は全てモジュール設計になっていくと思います。従来のように全部コンクリートで打設して解体できないということはなくなります。既存の鉄骨や木造軸組でも一部はモジュール化されて分解できるようになっていますが、モジュール化の知見が溜まっていくことで、大型の特殊な形状もモジュールで対応していくことができるようになっていくと考えています。そういう意味ではかなり価値を出せるんじゃないかと。

―今後デジタルで竣工データがきちんと残していけたら、どう解体するかというのも紐解いていけそうですね。

地域の森林状況から建物の部品情報も全部データベースに上がっている状態になると思います。家を建てる時も森林のデータベースのなかから計画的に木材を調達できるようになれば、おそらく植樹前から使い道が決まっていくと思いますし、解体前からどの部分を次の建建物に使うかが見える化されていくのでは。データが全部バックアップされて出来上がっていれば、建築物はあくまで部品と部品が一時的に組み上がっているだけという状況になると思います。そのためには、それに相応しい建物の組み方をデザインしなければならない。その時にわれわれの取り組みやデジタルファブリケーションというのが有効なのではと考えています。

デジタルファブリケーションを駆使しながら、従来の設計領域に留まらず生産流通を含めトータルで建築物をデザインしている同社。代表作である「まれびとの家」のように、サーキュラーエコノミーや林業などさまざまな観点で地域との“関わりしろ”を生み出したことは、デジタルファブリケーションの可能性を広げた。そして、住宅のみならずあらゆる建築物においてデジタルファブリケーションによる特殊形状の部品が簡単に加工できる世界を実現し、建築業界を牽引する存在になるだろう。今後の同社の取り組みから目が離せない。

続く後編では、今後どのように工務店がデジタルファブリケーションを取り入れていくべきかや、VUILD x ANDPADでできる取り組みについてをテーマに当社代表取締役・稲田武夫と新規事業開発責任者・今井亮介で実施した三者対談の模様をお届けする。

※後編はANDPADユーザー会員限定コンテンツです。ANDPADのIDをお持ちでない方はご覧いただけません。

※1 ファブラボとは、ほぼあらゆるもの」をつくることを目標とした、3Dプリンタやカッティングマシンなど多様な工作機械を備えたワークショップのこと。世界中に存在し、市民が自由に利用できる事が特徴。「ほぼあらゆるもの」には、大量生産・規模の経済といった市場原理に制約され、今までつくり出されなかったものが含まれる

※2 コンピュータ数値制御 (computerized numerical control)。機械工作において工具の移動量や移動速度などをコンピュータによって数値で制御すること、またはその装置

※3 製品、素材、資源の価値を可能な限り長く保全・維持し、廃棄物の発生を最小限化する経済システム。これまでの一方通行でモノを使う「直線経済」からの脱却を目指す

※4 コンピュテーショナル・デザインに特化したソフトウェア

VUILD株式会社
URLhttps://vuild.co.jp
代表者代表取締役 秋吉浩気
設立2017年11月21日
本社〒210-0024 神奈川県川崎市川崎区日進町3-4 unico1F-A
取材:今井亮介
編集:平賀豊麻
ライター:金井さとこ
デザイン:安里和幸
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