千葉県を拠点に、小規模工事から超高層建築物、大型物流施設まで幅広く手掛け、2023年10月で創業50周年を迎える高千穂鉄筋株式会社。鉄筋専門工事会社として「加工」「施工」「技術者」「立地」に強みを持ち、今から5年前には品質にこだわる「火の玉集団」としてリブランディングを行い、人材採用強化にも取り組んでいる。
そんな同社は、将来を見据えた社内体制の整備の一環として2021年にANDPADを導入した。現場社員の勤怠管理からスタートし、現在は全社の勤怠管理においてもANDPADを活用している。今回は、代表取締役 樋脇 毅さん、工事部 部長 城戸口 高広さん、総務部 課長 佐藤 司さんにインタビューを実施。前編では、同社の特徴と強み、専門工事会社の中でも一際目を引く「火の玉集団」に表されるリブランディングについて伺った。
城戸口 高広氏
高千穂鉄筋株式会社 工事部 部長
建築系専門学校を卒業後、1999年に同社に入社。入社24年目。職人としてキャリアを積み、一級鉄筋施工技能士の資格を取得し、現場管理を担当。2021年4月より現職。
佐藤 司氏
高千穂鉄筋株式会社 総務部 課長
大学卒業後、2015年に信用金庫に入庫。営業として活躍する。2020年スペシャリスト採用で同社へ転職。経理全般、労務管理などを担当し、現在に至る。
INDEX
- 鉄筋工事のプロフェッショナルとして「ワンランク上の仕事」に尽力
- 鉄筋専門工事会社の二代目経営者として社内改革や労働環境の整備に奮闘
- 会社の生命線である品質管理を徹底
- リブランディング戦略「火の玉集団」で採用を強化
- 社員満足度を高め、キャリア形成をバックアップ
鉄筋工事のプロフェッショナルとして「ワンランク上の仕事」に尽力
千葉県を中心に、大規模商業施設や国際空港、オフィスビル、マンションなど数多くの物件の鉄筋工事を手掛けている同社。建造物の震災での耐久性や安全面における要望に対して、技術力とヒューマンパワーで対応することで、ゼネコンなど元請企業からの信頼も厚い。同社は、加工から配筋、施工、さらには搬入にあたるスタッフにいたるまで、「ワンランク上の仕事」に尽力。CADを始めとする先端技術や、地組工法などのさまざまな工法にも対応し、常に新しい技術を採り入れて進化を続けながら業務を遂行している、まさに鉄筋工事のプロフェッショナルだ。
樋脇さん: 当社の場合、材料に関しては100%元請企業様から支給されるためリスクは少ないものの、その分100%手間代のみなので儲けも少ない。そのため業務の効率化によって粗利を上げていくことが大事で、なるべく少人数で手戻りのない仕事をすることが鍵を握ります。その意味では自社職人を抱え過ぎないことも重要です。受注が上振れして当社の稼働キャパシティを超える分については、他社さんに手伝ってもらうなど一部アウトソーシングしながら進めています。大規模物件の場合は景気の影響を比較的受けやすいこともあり、横の繋がりが強いというのは、鉄筋業界の特徴だと思います。
高千穂鉄筋株式会社 代表取締役 樋脇 毅氏
鉄筋専門工事会社の二代目経営者として社内改革や労働環境の整備に奮闘
同社は樋脇さんの父にあたる先代が1973年に創業し、2023年10月で創業50周年を迎える。樋脇さんは2008年に二代目の代表取締役に就任したが、元々は家業を継ぐ予定はなく、大学卒業後にメガバンクに入行し、支店勤務を経験後に本部でマーケット担当として活躍していた。先代が還暦を迎えたタイミングで一念発起して家業に入り、鉄筋業界へとキャリアチェンジを遂げた。
樋脇さん: 家業に戻ったのはちょうど世の中全体として景気が悪くなり始めた頃でした。IT化も進んだタイミングでしたが、当社の経理はそろばんで計算しているような状態。当時の社員数は20名弱で、PCは1台もなく、自分が使っていたPCを使って仕事をしていました。Excelで帳票を作ったり、バブル期にお付き合いがあった会社さんに顧客掘り起しのための営業活動をしたりと、自分にできることはどんどんやっていった。
景気悪化に伴い、当時のメインバンクだった都銀が貸し渋りをしたら経営破綻に追い込まれるかもしれないと予測し、銀行での経験を活かして先回りして地方銀行さんでの無担保での借り換えも行いました。現場経験は少ないですが、半年くらいは配筋検査で元請企業の担当者さんと一緒に現場に常駐したり、資格を取得していたので玉掛けの手伝いをしたりもしましたね。
こうして、財務会計、営業活動、現場フォローを行なっていった結果、少しずつ会社の財務状況も良くなっていき、営業活動によって新規の仕事も増えていきました。全くの他業界から来た二代目ではありましたが、入社早々に経営者としての仕事ぶりを社員から認めてもらい、信頼を得ることができました。そのため、事業継承における社内のハレーションは少なかったですね。
現在の社員数は34名(2022年7月取材時)。そのうち、樋脇さんが入社した当時のメンバーは現在では1名と、組織の若返りが進む同社は、業界課題である社員の働き方改革にも積極的に取り組んでいる。
樋脇さん: オフィス勤務の事務員は完全に土日祝日が休日で、現場担当は隔週の週休二日制(第2・4)に。社員は半年に2日ずつリフレッシュ休暇を取得でき、連休が取りやすい環境を整えています。とはいえ、ゼネコンさんなど元請企業様の現場で仕事をするので、自社の意思決定だけでは週休二日制は実現できません。お取引させていただいているゼネコンさんも、少しずつですが、現場での週休二日制の実現に向けて取り組んでくださっています。
業種によっては土日や夜間の工事が当たり前の場合もあるため、建設業界全体の働き方とひと括りにはできないものの、新築の工事が主となる鉄筋業界での労働環境改善に向けて取り組む同社。しかし大きなハードルもあるという。労働環境を整えるべきではあるものの、今まで稼働していた土曜日を休みにすると、職人はその分賃金が減少してしまう。そのため、現場が動いているなら稼ごう、と結局は働いてしまう。この状況を打開するためには職人の単価を上げる必要があるが、土曜日にも稼働する職人がいる限り、単価はなかなか上がらない。そうなると、いつまで経っても業界として土日休みでも成り立つ賃金体系になりにくい。まずは現場の土日休みをスタンダードにしていくことが重要で、「土曜日に休めない仕事は職人に請けてもらえない」という状況をつくることで、週5日労働で生活していける単価に調整されていくはずだ、と樋脇さんは言う。
樋脇さん: 10年ほど前、鉄筋工事の案件が激減した影響で、請負単価が大幅に下落したことがありました。元請企業様の立場的にそうせざるを得ない状況だったとは思いますが、それでは鉄筋業界として持続的な労働環境を整備することができない。請負単価の下落に対して、業界全体で連帯して元請企業様に交渉したことで、ご理解をいただき単価を戻すことができました。
休日についても同様で、実現のためには元請企業様の決断が必要です。業界として、元請企業様に対して土日休みを提言しようという動きも出ていますが、道半ばと言ったところ。私は業界団体の委員を務めていますが、まもなく各業界におけるレベル別の最低賃金や、標準請負単価の指標が公表される予定です。実際に働き手がいなくならないと危機感を持ってもらえないかもしれませんが、職人の請負単価を上げていくために業界として取り組まなければいけないことだと感じています。
会社の生命線である品質管理を徹底
同社が多くのゼネコンから信頼を得ている要因の一つとして、品質管理の徹底ぶりが挙げられる。元請企業による配筋検査があり、監理者による配筋検査、さらに場合によっては第三者検査を経てコンクリート打設という一連の流れがあるなかで、品質の高さが求められる時代だからこそ、同社は配筋検査の自主検査を行なっている。
樋脇さん: 以前、当社では品質に関わる事故を起こした過去があります。その経験を教訓にそれ以来、品質管理には徹底的にこだわるようにしています。なかには、しっかりとした検査基準をもっていなかったり、曖昧に検査して終わりの会社さんもあるかもしれませんが、当社にとってはそんなことはあり得ません。自主検査というのは会社にとっての生命線であり、常に気を配っています。配筋検査の自主検査を行うことは当然のことと考えているし、品質の高さへの想いは非常に強いです。
自主検査の体制としては、職長が自主検査を行った後、品質管理担当が確認を行う。最終確認は品質管理担当だけでなく城戸口さんや専務も対応できる運用になっており、技術者がしっかりと検査を行う盤石な体制をとっている。今後は、検査のデジタル化も進めていきたい考えだ。
リブランディング戦略「火の玉集団」で採用を強化
エリアや会社によってカラーが異なり、作業のやり方や身に付けられる技術のレベル感も異なってくることから、高千穂鉄筋では中途採用はあまり多くないという。人材獲得の鍵は、いかに新卒採用を成功させるかだ。
同社は、5年前に採用強化を目的としてリブランディングを行い、「火の玉集団」というキーワードを打ち出した。「火の玉集団」には、同社の顔である樋脇さんの熱い気持ちが込められている。
リブランディング時にリニューアルした同社のHPのビジュアル。炎×鉄筋をモチーフにしたブランドロゴで「火の玉集団」を表している。名刺も同じデザイントーンにリニューアルした
樋脇さん: 創業45周年をきっかけに「火の玉集団」を打ち出し、HPのリニューアルや動画制作も行いました。このリブランディングは当社にとって非常に大事だったので、クリエイティブにはこだわりましたね。媚を売らない硬派なイメージで、われわれの仕事をしっかりと魅せられるよう作り込みました。当社はベトナム人の技能実習生の受け入れを行なっていますが、実習期間中はなかなか母国に帰る機会がありません。そこで、彼らの家族にも仕事ぶりを見てもらいたいと思い、ベトナム語の字幕が入った動画を制作しています。親御さんも含めて評判は上々です。
リブランディングによって、7名の新卒を採用することができました。親御さんも含めて求職者の方々からの信用を得るには十分の成果だったと思います。
ベトナム語の字幕が入った動画。職長、現場施工、施工管理、加工、それぞれの仕事内容ややりがい、仕事にかける想いが語られている
こうした取り組みによって、同社はその後も継続的に新卒採用で成果を上げており、今年と昨年でそれぞれ2名ずつ新卒社員が加わった。ベトナム人の技能実習生については、監理組合から紹介された人材を面接で選考する流れで採用している。コロナ禍以降はなかなか実施できていないものの、必ず現地に足を運んで面接をすることを大切にしているのだという。
社員満足度を高め、キャリア形成をバックアップ
鉄筋業において、現場管理が任せられる主任技術者になるまでにはさまざまな経験と資格取得が必要となり、最低でも7〜8年はかかるという。技能者、現場管理者、管理職それぞれのキャリアステージにおける課題に直面するなかで挫折してしまうことも多い。そのため、同社は入社後の社員のキャリア形成のバックアップにも注力。今後のキャリアがイメージしやすくなるように、現場作業をやりながら一級建築施工管理技士の資格を取得した職長や、城戸口さんがベンチマーク的な存在となっている。
城戸口さん: 私の場合は、入社して3ヶ月間は加工場での業務を経験し、その後に職人として現場に出ました。二級と一級の鉄筋施工技能士を取得し、そこから職長として数現場キャリアを積んで今のポジションに。
この仕事は一人前になるまでに時間がかかります。入社3年未満でこの先のキャリアが見えずに挫折してしまうことも多いですね。また、職長になってからも、責任の重さやマネジメントの苦痛で挫折してしまうことも。キャリアを積み重ねていくにつれてぶつかる壁はさまざまで、課題や困りごとはキャリアステージによって異なります。だからこそ、コミュニケーションを取りながら先々のキャリアプランを見せていき、直面している課題に寄り添うことがとても重要と考えています。
高千穂鉄筋株式会社 工事部 部長 城戸口 高広氏
樋脇さん: 「ずっと同じ仕事をしているだけかな……」と思って転職されてしまうことは避けたいので、年2回の個人面談のなかで先々のキャリアイメージを示すようにしています。
会社それぞれのカラーがあり狭い業界なので、同業他社からの中途採用を期待するよりは自社でいかに優秀な人材を育てるかが重要。当社は戸建の基礎からコンベンションセンターのような大型建設現場までさまざまなステージを用意しているので、職長として頑張りたいという人にはステップを見せてあげられるのですが、そこに辿り着くまでには悩みは尽きないですね。将来の夢が実現できるとか、労働時間や給料などの面でも、メリットを感じて残ってもらえたら。
(写真左から)高千穂鉄筋株式会社 代表取締役 樋脇 毅氏、工事部 部長 城戸口 高広氏、総務部 課長 佐藤 司氏
社員の会社への帰属意識を育み、体験価値を上げるための取り組みも積極的に行なっており、同社では新入社員には名刺を必ず作成しているという。業界的には職長レベルでも名刺がない場合もあるなか、こうしたきめ細やかな配慮の積み重ねが社員のモチベーションアップに繋がっている。
また、6段階ある社内評価グレードと連動するかたちで、4つの等級ごとに色分けし、職級ごとにロゴマークをあしらった色違いのステッカーが配布される。これにより、キャリアアップへの意欲を促進している。
樋脇さん: 社内等級については、職長の意見を聞きながら通知表のように評価を行います。それをもとに個人面談を実施して、社内でのキャリアの道筋と、そのために乗り越えるべき課題について伝えて把握してもらっています。その課題を一つひとつ克服しながらキャリアを積み重ねていってもらいたいと考えています。
城戸口さん: 他社の作業員が入った現場でも、以前はどうしても年齢の高い職人に質問しがちでしたが、今ではステッカーの色を見て「この人に聞けば回答してもらえるだろう」と判断しやすくなっていると思います。従来は、等級は色ではなくラインの本数で見分けていました。職長になると2本線のラインになるのですが、私も1本線の時がありましたが早く2本線になりたいと思って仕事と向き合っていました。こうした取り組みがモチベーションの変化や、働きがい、責任感にも繋がっていますね。
鉄筋専門工事会社の二代目経営者である樋脇さんを中心に社内改革を推進し、社員の働き方改革に精力的に取り組む同社。現場に立つ仕事だからこそ遭遇する様々な体験、そこに身を置く社員ひとりひとりの心とキャリアに寄り添う同社の真摯な取り組みは、社員の働きがいをより良くしていくことへと繋がっていく。「火の玉集団」として熱い想いを打ち出したリブランディングでは、新卒採用強化にも成功した。また、現場管理者となるまでに7〜8年かかる専門性の高い職種であるため、そこに辿り着くまでのモチベーションアップやキャリア形成においてもきめ細やかなバックアップを行なっている。
こうした取り組みの中で、将来を見据えた社内体制の整備の一環として2021年にANDPADを導入。後編では、ANDPADの報告機能を活用した鉄筋業界ならではの労務管理DXについて深掘りしていく。
URL | http://www.takachihotekkin.co.jp |
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代表者 | 代表取締役 樋脇 毅 |
設立 | 1973年10月 |
所在地 | 〒270-1416 千葉県白井市神々廻1828 |