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株式会社マルサン|工務店と職人、双方から選ばれる戦略を実践。内装仕上げ業界に新風を吹き込む経営者

〜前編〜ANDPAD AWARD2022「ベストボードユーザー賞」2位/受賞ユーザーインタビュー

目次

  1. 事務所併設のショールームを活用しスムーズな商談に繋げる
  2. 職人に支払う報酬を固定給に。品質向上と職人の所得安定を実現
  3. 事務所の黒板での案件管理にリスクと煩雑さを感じ、ANDPADボードを導入

ANDPADの利用状況をデジタルにスコアリングし、ANDPADを最も使っているユーザーに対して贈呈するANDPAD AWARDのユーザー賞。今回は、「ベストボードユーザー賞」全国2位を受賞された、株式会社マルサン 代表取締役 倉田 浩延さんにお話を伺った。

株式会社マルサンは、壁紙や床の施工、カーテン・ブラインド・照明の取り付け設置など、内装仕上げ工事全般を手がけている会社だ。三重県に根ざし、住宅の新築・リフォーム、店舗まで幅広い工事に対応している。同社はもともとハウスメーカーや工務店から招待を受けて社外ユーザとしてANDPADを使用していたが、2021年にANDPADボードを自社にも導入し、職人の稼働管理・現場管理に活用している。

今回は、同社の代表取締役 倉田さんにインタビューを実施。前編では、事業の特徴や倉田さんの普段の仕事ぶりを中心に紹介していく。また、建設業界全体の構造に課題を感じている倉田さんが、職人が安心して仕事に打ち込める環境を作るべく「社外職人への固定給支給」を決めた経緯にも迫った。

事務所併設のショールームを活用しスムーズな商談に繋げる

──「ANDPAD AWARD2022 ベストボードユーザー賞」全国2位受賞、おめでとうございます! まず倉田さんのご経歴を教えてください。

倉田さん: 父が家具やカーテンなどのインテリア資材を販売する会社を設立しており、その影響もあって、私も大学卒業後に大阪に本社を構えるインテリア資材の商社に就職しました。営業や工事管理を3年間担当した後、実家のある三重県に戻って父親を手伝い始めました。その後、前職での経験を活かし、工務店さんやハウスメーカーさんから内装仕上げ施工を請け負う事業に参入しました。2018年に法人化し、現在は私が代表を務めています。

──内装仕上げ工事業をスタートした後に法人化されているのですね。貴社の事業においてターニングポイントになったことは何でしょうか?

倉田さん: 2013年に建設業許可を取り、民間工事だけではなく公共工事にも参加するようになったことが転換点でした。公共工事は、人材や資材、工程、品質の管理はもとより、各種申請や必要書類の提出も徹底しなければなりません。細かいポイントもすべて網羅して管理していく公共工事での経験を民間工事にも落とし込み、全現場の品質を高いレベルでキープしたいと考えるようになりました。

──品質を重視して現場管理に臨まれているのですね。他にも御社の特徴があれば教えてください。

倉田さん: 事務所に「インテリアカフェ  ジョイリス」というショールームを併設していることが当社の特徴です。各メーカーの内装材やインテリア、輸入壁紙などの見本を展示しており、最新カタログも豊富に取り揃えています。通常であればこうした内装材については、工務店さんとエンドユーザー様が打ち合わせをした上で、決定した品番が内装仕上げ会社に知らされるという流れになりますが、当社の場合は違う動きもとっています。工務店さんからご案内を受けたエンドユーザー様が直接当社のショールームにいらして、その場でご相談いただきながら壁紙やカーテン等を検討いただけます。

──エンドユーザーに直接提案できる機会を持っている会社は多くはないと思います。

倉田さん: はい、その点は他社との差別化になっていると思います。私たちはエンドユーザー様が理想とするイメージをしっかりと伺った上で、プロの目線からアドバイスをしています。たとえば、壁紙は色や材質だけで決めてしまうと、実際に住み始めた後に「思っていたのと違う」と違和感を覚えることも少なくありません。そこで当社では、朝や夕方の日当たりを想定して「朝はここから日が入るので、こんなイメージの空間になりますよ」「夕方はちょっと暗く感じるかもしれませんが、この照明を組み合わせると雰囲気が出ます」などと、具体的にご提案しています。ショールームには壁紙のサンプルも豊富に取り揃えているので、みなさん楽しそうに商品を選んでいますよ。

倉田さん: エンドユーザー様がショールームにいらっしゃるのは、工務店さんとの契約より前のこともままあります。実際の商品を見ていただき、コーディネーターがプロの目線で具体的なアドバイスをすることで、「マルサンに内装を頼みたい」と思っていただくことができ、実際のご契約にも繋がりやすい。工務店さんとの契約が決まれば、内装仕上げ工事に関しては自動的に当社に発注がいただけるというわけです。ショールーム機能を持つことで、工務店さんへの価値提供をしながら、当社としても受注率を上げることができています。

また、ショールームでの接客時には工務店の営業さんがいる場合もあれば、その場には同席されず当社にお任せいただける場合も少なくありません。営業さんとしてはその時間を他のお客様への営業活動に充てることもできるわけですから、そういった点も工務店さんへの付加価値と言えると思います。

それに加えて、ショールームでお客様といろいろとお話しするなかで、具体的なニーズも見えてきます。「どういう意図でその商品を選んで、どういう仕上がりにしたいのか」がより正確に把握できるため、後々工事が始まってからも、そのことを職人に的確に伝えられます。実際の提案内容が分かっているからこそ、正確にイメージを伝えることができ、結果的に色々な面においてのロスも少なくなっています。



職人に支払う報酬を固定給に。品質向上と職人の所得安定を実現

──先ほど品質重視のお話をされていましたが、直接職人さんにエンドユーザーの思いを伝えられることも品質の担保につながっているのですね。貴社には、社員職人さんもいらっしゃるのでしょうか?

倉田さん: はい。当社では、社員職人・当社専属の外注職人・スポットで入る外注職人と、3つの形態の職人と一緒に仕事をしています。専属の外注職人に支払う報酬を日額の固定給で支給していることも当社の特徴です。

株式会社マルサン 代表取締役 倉田浩延氏

──業界内では歩合制の職人さんが一般的かと思いますが、なぜ固定給にしているのでしょうか?

倉田さん: それにはまず歩合制の問題点について説明する必要があります。職人の立場で考えたときに、歩合制の場合、1つの工事に対して貰える金額は決まっているわけですから、案件稼働率を高めて収入を上げようという力学が働きます。こうした状態で仕事を請けていったとき、より多くの工事予定を前後のバッファーを最小限にして詰め込んでいくことも起きる。すると、仮に1つの工事が予定よりも1日かかった場合、その次の工事は予定よりも1日短い工期で対応しなければなりません。そういった連鎖によって、無理なスピードで仕事をすることでミスや仕事の荒さが生まれてしまうことに繋がりやすいのです。

特に内装工事は家づくりの最終段階なので、どうしても工期遅延のしわ寄せが来やすい。短い工期のなかで無理に工事を進めてしまうと、結局手抜きやミスが起き、クレームに繋がったり、手戻りが発生したりします。1つの工事をやり直すとなれば、その分の移動費も材料費もかさみますから、経営的なダメージも大きいです。

さらに言えば、歩合制は工事に対して単価を受け取る仕組みですから、何らかの予想外のトラブルが起きて工期が1日多くかかってしまった場合でも、受け取れる金額は当初予定から変わらない。これが他者起因だったりすると特に、職人のモチベーションは下がりますよね。こういうことが続けば、「あそこの仕事はいつも損するから」と職人が離れていってしまう。職人不足のいま、それは問題です。

職人のモチベーションを下げることなく、適切なスピードと品質で仕事をしてもらうためには、「案件稼働率を高めて収入を上げようという力学」が働かないような報酬設計が必要だ、と考えたのです。

倉田さん: そこで、当社では歩合給から固定給への移行を決めました。専属の外注職人に納得してもらえるように、まずはこれまでの年間対応件数を算出して、おおよその年間支払い額を割り出しました。数年間のデータを提示した上で、「毎年同じ額を支給できるように案件を供給するので、年間の支払い額を分割して固定で支払うのはどうか」と提案しました。

歩合給の職人は、仕事量によって収入が大きく変わるので、日々仕事を確保するストレスにさらされています。任された案件が仮に1週間延期になってしまったら、ぽっかりと予定が空いて無収入になってしまいます。しかし、当社が安定して仕事を供給し、毎月固定の収入を得られるのであれば安心して仕事に打ち込めますよね。

また、当社は追加工事が発生して工期が延長した場合、工務店さんやハウスメーカーさんにきちんと追加請求をして、専属の外注職人に追加分を支払います。だから「手を抜かずに質の高い仕事をしてほしい」と伝えています。もし工期を絶対に動かせない工事であれば、質を落とさないために、当社がスポット職人を呼んでフォローに入るようにしています。

収入を安定的に確保できる上に損のない仕事ができるのであれば、職人も自然と当社の仕事を続けたいと思うでしょう。また、当社との取引を継続するために質の高い工事をしてくれるのです。私たちとしても優秀な職人さんを安定的に確保できるのでメリットは大きいです。

──データを踏まえ職人さんにご納得いただける提案をされているのがとても素晴らしいと感じました。それだけではなく、年間で受注を確保するための営業努力、追加工事が発生した場合にきちんと請求・支払いを行っていらっしゃることからも、職人ファーストの一つのロールモデルであると感じました。



事務所の黒板での案件管理にリスクと煩雑さを感じ、ANDPADボードを導入

──次に、全国トップクラスのANDPADボードユーザーが日々どのように仕事を進められているのかお伺いしたいと思います。倉田さんの1日の流れをぜひ教えていただけますか?

倉田さん: 朝5時半に起床し、入浴しながら、業界団体や関係のある会社の情報をSNSでチェックします。その後、7時〜7時半ぐらいに出社してメールを確認します。同時に、当日の現場スケジュールもチェックして、職人に間違いなく伝達できているかを見ていきます。前日に突発的な変更が発生する場合もあるので、その際はANDPADボードからの通知だけではなく、電話でも伝えてフォローしています。

始業は8時からですが、その後はほぼ電話対応に追われています。電話の数は毎日100件は超えると思いますよ。スマートフォンの着信履歴がどんどん上書きされていって、朝にかかってきた履歴が確認できない状態になるほどです(笑)。私はPCのディスプレイを2台使って仕事をしていますが、片方にコンパクト表示のANDPADボードを常時表示し、メールや電話を受けながらスケジュールの調整やさまざまな手配をしています。

──1日100件の電話とは驚きです。どんな問い合わせが来るのでしょうか?

倉田さん: 一番多いのは工務店やハウスメーカーの営業さん・現場監督さんからの困り事の相談ですね。「こんな資材はある?」「この現場はどう進めたらいい?」と聞かれることもあれば、見積もりと写真が送られてきて「こんな仕上げにしたい」と相談を受けることもあります。お客様の中でイメージは固まっていても、最適な資材や工法、工事手順が分からない時に問い合わせが来ますので、適宜アドバイスをさせていただいています。こうしたきめ細かいサポートをしているのも私たちがお客様から選ばれている理由だと考えています。

──日々多くの問い合わせを受けながらも、そのやり取りのなかで付加価値を提供し、お仕事の受注に繋げていらっしゃるんですね。ANDPADボードを導入いただいたのは、そうした忙しい状況を少しでも効率化する狙いがあったのでしょうか?

倉田さん: はい。以前は事務所の黒板に現場名や日程を記載して、案件や職人の稼働を管理していました。日時変更があった場合には、以前の予定を消して書き直して……を繰り返していたのですが、その際に記入漏れが発生するのではないかと気になっていました。

また、職人が仕事終わりに事務所へ立ち寄って、事務所の黒板で翌日の予定を確認してくれればいいのですが、現場から直帰した場合は電話をかけて明日の予定を伝えなければなりませんでした。いちいち電話をかける手間をなくしたいと思ったのもANDPADボード導入を決めた理由のひとつです。

ANDPADボードは全員のスケジュールを一覧で確認できますし、変更を入力すれば担当者にすぐ通知が飛ぶので職人に予定を伝える電話をかける必要もなくなりました。各現場の進捗状況も分かるため、トラブルがあっても早い段階で対策が打てています。

案件情報は前日には入力していますので、職人には「事前に情報を読み込み、段取りをイメージしてから現場に入ってほしい」と伝えています。当日行ってから現場を見て考え始めるのと、事前に準備をしてからスタートするのでは作業に大きな差が出ますからね。

直近の案件だけではなく、1~2ヶ月先の予定も見通せることも導入後に実感したメリットです。次の現場の動きを考えたり、必要になる資材を手配しておいたりと、事前に段取りを考えて動けるようになりました。

自社のショールームで工務店に代わって内装資材の提案を行い、工務店の受注率向上に寄与している同社。また、内装仕上げ全般の技術アドバイザーとして幅広い問い合わせに応えることで、「マルサンに頼めば安心」といった信頼感も醸成している。

価格ではなく「付加価値」で選ばれることで工務店からの依頼を生み、専属の外注職人に仕事を安定供給する。同社の戦略は、工務店にも、職人にも、自社にもメリットをもたらしているのだ。後編では、実際のANDPADボードの運用方法や職人の教育に対する思い、倉田さんが思い描く業界の展望などについて深堀りしていく。

株式会社マルサン
URLhttps://www.i-marusan.com/
代表者代表取締役 倉田 浩延
創業1992年
本社〒514-0831 三重県津市本町4-14
取材・編集:平賀豊麻
編集:原澤香織、市川貴啓
執筆:保科美里
デザイン:森山人美、安里和幸
顧客担当:楠本綾
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