創業から90年、東京都荒川区を拠点に住宅塗装をはじめ、ビル改修工事やメンテナンス修理などあらゆる人の住環境の改善に取り組む株式会社伊原塗装。重要文化財の補修工事など高度な技術を要する案件も請け負うなど、確かな技術力でお客様からの信頼を獲得している。
同社は2020年にANDPADを導入。工事履歴を蓄積して在庫管理やアフターフォローに活かすことで、業務効率化を図っている。そこで、今回は代表取締役・伊原創一さんと、伊原健太郎さんにインタビューを実施。前編では、同社の強みである技術力と“塗装愛”について、技術力を高めるための後進育成への取り組みや、「総合改修業」としてコンビニエンスな存在になるためのブランディング向上について紹介する。
伊原 健太郎氏
株式会社伊原塗装
創一氏の長男。大学卒業後、2013年人材サービス企業に新卒入社。営業として活躍し、5年目に管理職に。2018年に家業である同社に中途入社。同社のデジタル化の推進役として活躍。InstagramなどSNSでも積極的に発信を行っている。
ときには利益よりもやりがい重視で、幅広い工事を手掛ける“塗装愛”
1932年から東京荒川区を拠点に90年に渡り塗装業を展開する同社。住宅塗装だけでなく、ビル改修工事やメンテナンスなど塗装工事をベースに幅広く手掛けている。同社の三代目代表取締役である伊原創一さん(以下、創一さん)は、塗装の技術や知識を学ぶ「東京都塗装高等技術専門校」の校長を務めるなど、塗装業界全体の後進育成にまで視野を広げ、業界のさらなる発展に向けて尽力している。
同社は、戸建住宅からビル、寺社や店舗までさまざまな建物の塗装をはじめ、重要文化財の塗装など行政機関管轄の案件も手掛けており、確かな技術力が強みだ。
創一さん: 地域の付き合いによる受注もありますが、商圏範囲は幅広いです。ゼネコンや建築会社などの案件が中心であることから千葉や神奈川、茨城など首都圏周辺エリアまで対応していて、交通費などのコストと見合えば工事を請けるようにしています。
そんななかでも職人が一際楽しんでいるのは、建築当時の仕上がりを再現するというような難しい案件ですね。難易度が高く技術力が求められるからこそ、職人は腕を鳴らせています。なかには当時使用していた材料がないケースもあります。例えば、金箔を使わずに「金箔らしく」するにはどうしたらいいか、材料の選定から何回もテストしたことも。重要文化財などは同じ材料を使う必要があるのですが、メーカーが当時の材料を残してくれていても、古い材料だと乾きが遅くて施工が難しかったり、木材は木目なども似ているものを選ばなければならなかったりと、大変なことが多いんです。
株式会社伊原塗装 代表取締役 伊原 創一氏
資料から当時どのような材料を使っていたか紐解き、その材料を探すだけでもひと苦労だ。しかし、同社はそれも含めてどうやればうまくいくのかを試行錯誤しながら最適解を見出すプロセスをみんなで楽しんでいるのだという。
創一さん: 廊下の大理石が一部破損したというような案件は、同じ材料がないので左官仕上げでならして大理石に見えるように描きます。このような案件は「ピンポイントで直すためだけ」の予算しか確保していないケースが多く、実際はかなり費用がかかる作業なので、案件単独では利益が取れずに赤字になってしまうんですよ。
伊原 健太郎さん(以下、健太郎さん): でも、そういう仕事こそ面白い。だから全然嫌ではありませんね。大きな案件でしっかりと利益が取れていて、面白い仕事であれば一部赤字が出てしまってもやるべきだと判断することが多いですね。
株式会社伊原塗装 伊原 健太郎氏
創一さん: ときには、その案件自体では利益が出なくても次に繋げるためにやるべきだと判断する場合もあります。当社は行政機関の案件を請け負うことも多いのですが、そのような細かい案件をやっていることを覚えてくれて、「伊原塗装に頼めば直してくれる」と、次も仕事を依頼してくれます。重要文化財はレベルによって予算が全然違い、重要度の高い建築物であれば予算もあります。一時的には利益が出なくとも、対応することが自分たちにとっての“営業活動“でもあります。ただ、それができるだけの資金面の余裕は必要になります。
塗装のプロを育てる学校運営に関わり、業界全体の技術・品質向上に貢献
難易度の高い仕事であっても楽しみながら取り組む同社が最も大事にしているのは「技術力」だ。創一さんは東京都塗装高等技術専門校の校長を務め、後進育成にも精力的に取り組んでいる。
創一さん: この業界は職人の技術が一番重要なので、技術面を大事にしたい。東京都塗装高等技術専門校は、昭和32年に「塗装技能者養成所」として開設されて以来65年近く続く歴史ある学び場です。塗装の基礎を学ぶ場として技術の習得をサポートしています。私が校長になって10年近く経ちますが、東京都塗装工業協同組合の組合員で資金を出し合い、組合員で構成する専門校運営委員会で定期的に、必要な教材などについて話し合いながらきめ細やかな学校運営をしています。
長年培ってきたノウハウを取り入れたカリキュラムをベースにしつつ、塗装業界に入って最初に学ぶべきことなど時代の変化によって、都度細かい修正を加えているという。時代とともに材料なども変わることから、学校で習った内容がそのまま使えない場合もあるが、学校では現場で応用していくための基礎をしっかりと身に付けることができる。
創一さん: 刷毛の持ち方やローラーにどのくらい材料を付けるかなどは、見ているだけでは覚えられません。だから、まずやってみる機会を大事にし、なるべく実習の時間を多く取れるように工夫しています。学校でのカリキュラムを通して、一人ひとりが「これには自信が持てる」というものを身に付けてほしいという想いがあります。
受講者は高卒〜40代まで幅広く、社会に出てから学校に通う楽しみを体験でき、世代を越えたコミュニケーションが図れる場として多くの方に学んでいただいています。こうした交流が、「横のつながりが強い」業界特性にも繋がっています。
塗装業から「総合改修業」へ。リブランディングの取り組み
住宅塗装をはじめ、ビル改修工事、メンテナンス修理、重要文化財の補修工事などさまざまな建物の塗装を手掛けている同社だが、今後お客様に提供する付加価値をより強化するためにリブランディングにも取り組んでいるという。同社が目指すのは、“コンビニエンスな存在”として塗装だけでなくお客様の暮らしをあらゆる面からサポートする「総合改修業」だ。
創一さん: 私たちとしては、いい仕事をするのは当たり前で、さらに塗装以外のお困りごとにも対応できる、お客様にとって“コンビニエンスな存在”でありたいと考えています。例えば、「住宅の塗装工事のついでにトイレの修理や電気の取り替え、建具の交換などもやってもらいたい」とお客様に気軽にご相談いただけるようになりたい。実際、お客様からの反応がいいのはそうした「かゆいところに手が届く」対応です。こうした対応力をもっと伸ばしていきたいと考えています。そこで重要になるのが、現場で実際にお客様と接する職人。職人というと無骨なイメージがあるかもしれませんが、当社の職人はコミュニケーションが得意な人も多いので助かっています。現調でお客様の雰囲気やタイプを見極めて、合いそうな職人チームを割り当てるようにする工夫も。お客様にとって話しやすい人だと、ちょっとした要望や相談も言いやすいですし、それに対応できれば、さらに“コンビニエンスな存在”になっていくことができると思います。
健太郎さん: 現在、“コンビニエンスな存在”としての当社の強みをさらに高めていくために、「総合改修業」としてのブランドを立ち上げようとしています。今は対外的にどのように見せていくかについて検討しているところですが、まずは旗を上げよう、と。塗装以外の仕事が増えてきているので、そういう仕事も伊原塗装としてできるということをアピールしていけたらと考えています。
現場によって必要とされる職種が変わるので、「塗装」という言葉に留まらない「総合改修業」という言葉にしました。
かゆいところに手が届く「総合改修業」として、お客様に喜ばれる存在になる一方で、会社として扱う商品や工事が増えることで原価管理や粗利管理も複雑化してくるはずだ。
同社では原価や粗利はExcelで管理し、共有フォルダ上でデータを共有しており、創一さん、健太郎さん、専務の三名がデータにアクセスできる。これまでにも電気工事会社や設備会社などとやり取りした経験から、塗装工事以外の見積りを見ても「これでは高すぎる」など金額の相場感も分かるという。現状のような三名での経営体制であればデータの共有に課題が顕在化することはないが、今後人材採用を行い、組織化していくなかではデータの共有・蓄積についても整えていく必要があると感じているという。
確かな技術力と品質にこだわり、元請企業からの信頼を獲得している同社。さらなる成長を目指して、お客様にとって“コンビニエンスな存在”としての付加価値を強化し、塗装業に留まらない「総合改修業」に向けて動き出している。
後編では、ANDPADの活用による情報基盤づくり、ANDPAD利用を定着化させるための導入プロセスのデザインについて深掘りしていく。
URL | https://ihara-toso.co.jp |
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代表者 | 代表取締役 伊原 創一 |
創業 | 1932年6月 |
所在地 | 〒116-0014 東京都荒川区東日暮里6-20-4 |