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誉建設|100年先も変わらない“想い”を込めて——徳島に根ざした工務店が描く持続可能な地域とは〜Vo.1〜

社員大工の育成に尽力、一人ひとりの個性が活きる仕事を創出

目次

  1. 「家」「人」「森」「暮らしの質」を軸にクリエイティブな経営を実践
  2. 「住宅のつくり手である大工がなぜ工務店にいないのか」と違和感を覚えた
  3. 社員一人ひとりの強みを活かす人員配置
  4. 「建築工程の内製化」の可能性が見えた、社員全員でのフルリノベーション

徳島県徳島市国府町を拠点に、新築住宅事業、リフォーム住宅事業、インテリア事業を展開する株式会社誉建設。1979年の設立以来、40年以上にわたって地域の住まいづくりを手がけてきた地域密着型の工務店だ。

今回は、同社の代表取締役を務める鎌田晃輔さんにインタビューを実施。鎌田さんは、徳島県産・四国産の構造材を100%使用する「ホマレノイエ」ブランドの展開や、“自然を育み、人を育てる森”をつくる「ホマレノ森プロジェクト」などを通じて、地域の活性化にも取り組んでいる。

そんな鎌田さんが大切にしているのは「違和感から逃げないこと」だという。変わりゆく故郷の自然環境、頻発する自然災害、建築業界の人材不足——など、鎌田さんはさまざまな課題から目を背けない。「自分のやりたいことをやっているだけ」と軽やかに笑いながら、地域社会の持続性の実現に向けて一歩ずつ歩みを進め、ビジネスモデルを構築し続けている。その意味で、鎌田さんは地域工務店の生存戦略をまさに実践している経営者と言えるだろう。

本記事では、地域工務店の立場から持続可能な地域づくりに力を注ぐ鎌田さんのインタビューを3篇に分けてお届けする。Vo.l1では、同社の事業概要や、大工の社員化・建築工程の内製化に取り組んだ経緯について詳しく紹介していく。

鎌田 晃輔 氏
株式会社誉建設 代表取締役
1976年徳島県生まれ。大学卒業後、誉建設に入社。2011年、同社代表取締役就任。職人不足や地域産業の低迷などの課題解決を通じて地域工務店としての地方創生に挑んでいる。誉建設の事業指針「ホマレノ森プロジェクト」として、「家づくり」「人づくり」「森づくり」「暮らしの質づくり」という4つの基本コンセプトを事業の主軸に据えて、地域循環型の建築事業を具現化しようとしている。(一社)もりまちレジリエンスという組織も創設し、地域産材を活用する仕組みを他の工務店と共有することなども検討している。

「家」「人」「森」「暮らしの質」を軸にクリエイティブな経営を実践

「地域に生かされ、必要とされる企業」であり続けるために、SDGsにもとづいた長期事業指針「ホマレノ森プロジェクト」を発足している株式会社誉建設。「家づくり」「人づくり」「森づくり」「暮らしの質づくり」の4つのコンセプトを軸に、さまざまな事業・社会活動に取り組んでいる。

同社の長期事業指針「ホマレノ森プロジェクト」の概念
https://homare-web.com/guidelines/

まず「家づくり」では、徳島県を中心とした四国産の木材を利用して住宅を建てる「ホマレノイエ・ホマレノリフォーム」ブランドを展開中だ。また、住宅着工戸数の減少を見越して、中大規模木造建築の事業化もスタート。2022年に開園した「ゆずりは保育園(徳島市中島田町)」は、徳島県産材100%で建てた木造建築施設として注目を集めている。

「家づくり」と連動しているのが、「森づくり」だ。鎌田さんは、地域産材の活用によって山の再生能力を高めようと、林業者・製材所と連携して地域産材を調達する独自のサプライチェーンを構築。地域の有志と「⼀般社団法⼈もりまちレジリエンス」を設立し、地域産材の利用価値を高めながら災害に強いまちづくりにも力を入れている。

また、「人づくり」では、地域産材を扱う技術を持った社員大工の育成に注力。地元の木材で大工がつくる“つくり手の顔が見える”家具ブランド「Archimobili -アーキモビリィ」は、「暮らしの質づくり」につながる事業として立ち上げた。

鎌田さんを中心に動いている多種多様な活動は、一見すると関連性が見えにくい。しかし、鎌田さんのフィルターを通すと、一枚の絵巻物となってストーリーが動き出していく。まずは、鎌田さんの経歴と事業に対する想いについて伺った。

鎌田さん: 大学卒業後、当社を継ぐために徳島に戻りました。今は従業員17名の会社ですが、当時はまだ父と母、私の3人しかいない小さな工務店でしたね。我が家は代々ものづくりに携わっている家系で、祖父は左官職人、父は大工から現場監督になって当社を立ち上げました。私もものづくりの仕事に憧れて二級建築士の資格も取得しましたが、いかんせん飽き性なので、同じものをずっと作り続ける仕事は自分に合わないと感じていました。

ものづくりの技術を持っていないことは正直今でもコンプレックスです。でもその代わりに、私はクリエイティブな経営をしようと日々試行錯誤を繰り返しています。住宅や家具を形にすることはできませんが、職人がいきいきと輝ける環境をつくったり、さまざまな事業を創造したりして、新しい価値を生み出したいと考えています。

株式会社誉建設 代表取締役 鎌田晃輔 氏

「住宅のつくり手である大工がなぜ工務店にいないのか」と違和感を覚えた

社員大工を雇用し、自社で受注・設計・施工・アフターメンテナンスまでを一貫して行う体制を整えているのが同社の住宅づくりの特徴だ。現在では、従業員17名のうち大工は8名と、約半数を占めている。同社はなぜ大工の社員化に取り組みはじめたのか、その理由を鎌田さんに伺った。

鎌田さん: 私たちは住まいを作る会社なのに、どうして社内に大工がいないんだろうと違和感を覚えたのがきっかけです。製造業では、ものづくりに取り組む技術者が社内にいるのは当たり前です。でも、建築業だけが外部の職人に依存していて、「工務店に大工がいないのってかっこ悪いな」とシンプルに思ったんです。また、住宅は多くの人にとって一生に一度の大きな買い物だからこそ、修理しながら長く住みつないでいける住宅でなければなりません。そのためには、自分たちが建てた住宅を修理できる大工が必要だと思い、大工の社員化に取り組みはじめました。


同社が取り組む「人づくり」では、目標のひとつに「社員大工 毎年2名以上採用」を掲げている。大工を目指す若者が年々減少するなかで、鎌田さんはどのように大工の採用を進めているのだろうか。

鎌田さん: 2018年ごろから新卒採用をスタートし、直近3〜4年は毎年新卒の大工を迎え入れることができています。2024年には、現場監督志望の学生も参加してくれる予定です。

新卒入社のメンバーは、当社へのインターンや地域団体の大工育成プロジェクトに参加してくれた学生さんがほとんどです。SDGsやエシカル消費など、社会貢献活動に積極的に取り組みはじめてから教育機関とのつながりができて、高等学校で大工の出前授業をさせていただいたりもしています。意欲のある若者との接点が増えたことは、思いがけない収穫でした。


鎌田さん: 実は、採用活動に力を入れるために、大枚をはたいて大手求人媒体に広告を掲載したこともありました。しかし、求人広告では私たちの伝えたいことが全く伝わらず、学生さんとうまくコミュニケーションが取れなかったんです。そこで、今後はインターンや職業体験から採用につなげていこうと社内で結論を出しました。

家族の誰かが建築業界で働いているような家庭でないと、大工になる方法や仕事のやりがいは理解しにくいものです。ですから当社では、保護者も一緒に参加できるものづくりイベントや社員大工と触れ合う体験会などを開催し、仕事内容をイメージできる機会を積極的に設けています。

仕事に必要な道具やガソリン代はすべて会社から支給しますし、年間休日は100日で、有給休暇を取得しやすい環境も整えています。大工として安心して家づくり・ものづくりに取り組める会社であることは、本人にも保護者にもしっかり伝えています。


社員一人ひとりの強みを活かす人員配置

鎌田さんは採用活動において、新入社員試験でよく実施されている適性検査は行っていない。その代わり、個々の強みを分析する診断方法「ストレングスファインダー(R)」を導入している。この“一人ひとりの強みを活かす”という考えの根本には、鎌田さんが学生時代に経験してきたラグビーのプレースタイルが影響しているという。

鎌田さん: ラグビーは15名それぞれにポジションがあり、担う役割が異なります。素早く走ってトライを決める選手もいれば、トライをアシストする選手、スクラムを組んだときに後方から押し込む選手もいます。いろいろな役割を持つ人が集まり、チームとなって成果を目指すのは、ラグビーも会社も同じ。社員が自分の強みを発揮できる職種へ的確に配置するのは経営者の大事な仕事です。

現在、同社では8名の社員大工が活躍しており、年齢構成は、40代2名、30代2名、20代3名、10代1名となっている。最近では、長く同社の仕事を専属で請け負ってきた60代の大工2名が社員雇用となり、若手の育成にも携わるようになった。さまざまな技量を持つ大工同士が一緒に働くことで、ベテランから若手への技術伝達も効率的に進んでいるという。

取材時にはちょうどドイツの職業訓練学校から2人の研修生が実習に来ていた。多様な人材が活躍する同社らしい光景だ。

なかでも30代の社員大工の一人は、工場勤務から転職してきたという異色の経歴の持ち主だ。鎌田さんは、その社員の強みを活かすために、「Archimobili -アーキモビリィ」という家具ブランドを立ち上げている。

鎌田さん: 彼はもともと仏壇職人として長年工場勤務をしていました。「大工になりたい」という強い想いはあったのですが、毎日現場で体を使って働く仕事にギャップを感じ、半年ほどで「私には向いていなかった、前の工場に戻るので辞めたい」と言ってきたんです。「またいつでも戻ってこい」と声をかけて送り出したところ、半年後ぐらいに「やっぱり大工になりたい」と連絡してきてくれ、話がまとまり、再入社して今に至ります。現在入社4年目になりますが、最近彼の手がけた住宅が竣工を迎えましたよ。

鎌田さん: 彼は木工が大好きで、自前の道具もたくさん持っています。加工機の扱いにも慣れていましたし、パッと目を引くような木工品がつくれる技術を持っていました。そこで私は彼の得意分野を活かしたいと考え、「建築のための家具、大工が作る家具」をコンセプトにした家具ブランド「Archimobili -アーキモビリィ」を立ち上げました。

「Archimobili -アーキモビリィ」展示の告知フライヤーと、実際の様子。

鎌田さん: 「Archimobili -アーキモビリィ」は、東京と徳島で二拠点活動をする設計士がデザインをし、徳島県産材を使って家具をつくっているブランドです。誰が家具をつくり、誰が製材し、誰が木を切ったのか、そもそも木はどこから来たのか……木が家具へと変わるまでの物語をあらわにすることで、より一層愛着がわくような価値のある家具にしてきたいと考えています。

徳島県産材から生まれた美しい取っ手。

鎌田さん: ブランドを立ち上げた大きな理由は、やはり「ここで一緒に働きたい」「大工になりたい」と来てくれた彼の思いが嬉しかったからです。当社の社員たちは、数ある企業のなかから当社に興味を持って来てくれた、働きたいと思ってくれた人たちですから、その想いを無駄にしたくはありません。社員一人ひとりの能力を生産性で測るのではなく、「この人ならどんな仕事・事業で活きるか」を考えることを私は大事にしていきたいです。

 

「建築工程の内製化」の可能性が見えた、社員全員でのフルリノベーション

社員大工の育成に加え、大工の個性を活かした新事業も立ち上げている鎌田さん。ただ、大工を社員として雇用したときに「大工をどう使ったらいいのか」と悩む経営者は多いはずだ。特に受注件数が減少したときに大工の手が空いてしまい、人件費がかさむことが懸念されるだろう。鎌田さんはその解決策のひとつとして「建築工程の内製化」を挙げている。

鎌田さん: 外注を減らしてお客様からいただいたお金を社内で回す。それが会社にとっても、大工にとっても一番メリットがあると考えています。例えば、枠材は外注すると1本1,000円ほどかかりますが、加工機を購入して社内で製作すればその分のコストは抑えられます。その他にも、ごみ捨てや荷揚げ、荷下ろしなど、できることはすべて自社でやるようにしています。社員大工の手間は増えますが、「自分がつくり上げた」という実感はより強く得られますし、外注費用も大工に還元できます。

この「なんでも自社でやる、自分たちでできる」を突き詰めて完成したのが「ホマレノ森研究所・山西」です。「山西」は、徳島県神山町にある築85年の古民家を社員総出でフルリノベーションした施設です。手作業での解体からスタートし、解体した木材を洗浄したり、削ったりして、再利用できるものはすべて大切に使いました。基礎工事や外構の石積みなど、普段は大工が行わない作業も社員大工が行い、左官作業には大工以外の社員も参加しました。


「ホマレノ森研究所・山西」建設途中の一コマ。

今後は、森や木、地域、暮らしに関わるさまざまな体験ができる場、出会いを生む場として「山西」を活用していく予定だという。この「山西」のリノベーションにかかった工事費用はすべて鎌田さんの持ち出しだというから驚きだ。

鎌田さん: 会社の売上につながる工事ではないので、社員大工が「僕はずっとこの現場に入っていて大丈夫なんですか?」と不安になって聞いてきましたよ(笑)。それでも、「山西」でさまざまなものをつくりあげた経験が、私や社員大工に自信を与えてくれると確信していたので完成まで工事をやり切りました。

これまでの“あたりまえ”に潜む違和感を見逃さず、まっすぐ経営や社員に向き合っていく鎌田さん。「なぜ工務店に大工がいないのか」との違和感から大工を社員化し、さらには生産性重視の時流に逆らって、社員の個性を活かした家具ブランドも立ち上げた。引き続きVo.2でも、鎌田さんが人と事業を結びつけていく「クリエイティブな経営」に迫っていく。

株式会社誉建設
URLhttps://homare-web.com/
代表取締役鎌田晃輔
創業1979年
本社〒779-3125 徳島市国府町早淵154番地の4
取材・編集:平賀豊麻
編集:原澤香織
執筆:保科美里
デザイン:森山人美、安里和幸
顧客担当: 
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