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新型コロナウイルス感染症が拡大する前からテレワークの導入と柔軟な働き方を推奨し、業績を上げてきた企業がアンドパッド(東京都千代田区)とWAKUWAKU(東京都目黒区)だ。施工管理アプリ「ANDPAD」、中古住宅売買とリノベーションを掛け合わせた「リノベ不動産」などを全国展開し、現状を冷静に見極めた施策を打ち出している。創業当初から提携してきたアンドパッドの稲田武夫代表取締役とWAKUWAKUの鎌田友和代表取締役に、コロナ禍とコロナ以降を見据えた働き方や事業展開、今後の展望などを聞いた。
稲田武夫
株式会社アンドパッド 代表取締役
建設・不動産業界におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)の進捗状況から聞きたい。
稲田: 新型コロナウイルス感染症拡大の影響で、2年分のIT化が2カ月で進んだ印象を受ける。昨年4月の緊急事態宣言後、経営者も外出が困難になり社内体制の整備に割く時間が増えたこと、また現状のままだと生き残るのは難しいと考える経営者が増え、DXを進めざるを得なくなったことが要因だろう。コロナ禍における顧客の要望で多かったのは『社員を守りたい』と『現場を止めない』だった。現場作業者には高齢者も多く、強く意識を向けるべきなのは『止まらない現場における作業者』ということを痛感した。このような状況下でANDPADは、デジタル上で元請けと作業者をつなぐ手段として、毎日の検温や意思疎通のツールなどに役立っている
鎌田氏: コロナ禍により各社のDXが急激に進んだのは間違いない。不動産業界では昨年の緊急事態宣言後に顧客と対面で接する機会が大幅に減った。その中でも何とか接点を持たなければいけないと考え、急ピッチで始まったのがオンライン商談の導入だ。当社が展開するリノベ不動産のブランドパートナー店にも初めてオンラインを導入した企業が多くあり、当初は戸惑いながらも使い慣れると独自でノイズ除去のアプリを入れるなど、それぞれが工夫し徐々に生産性の向上を実現していった。当社では、コロナ以前より設計業務などでリモートワークを導入していたが、今回を機に顧客とのオンライン商談という選択肢を増やせたのは重要な要素だった。一方で、4~5月にオンライン対応できなかった企業が多く、取引数は激減した。
DXは急速に進んだとのことだが、浸透しきれてない部分も多い。
稲田: 建設業界がDXを導入しても他業種より生産性向上の実現が困難と言われ続けているのは、現場が1社だけで成り立たないからと考える。ここが経営者を悩ませるポイントだ。建設現場に関わる各企業が、デジタル空間であらゆる情報を共有する。これを実現するには、業界全体に開かれたプラットフォームで、さまざまなIT技術をつなぎ合わせる必要がある。ANDPADは当初、施工管理機能だけを提供していたが、現在は原価・営業管理や受発注のペーパーレス化を進めるEDI(電子データ交換)など、さまざまな機能を備えるようになった。建設会社の経営をどのようにシステムで支援できるか。引き続き、各社が何を求めているかをヒアリングしながら明確かつ具体的な提案をしていきたい。
鎌田氏: 不動産業界には賃貸や仲介、売買などさまざまな分野があり、DX推進には各分野に個別対応したツールの提供と、他社が得意な要素を見極めて柔軟に連携していく姿勢が重要だ。IT化には取り組んだが、手間だけがかかって使いこなせず放置し、半年後に別の製品を購入しても結局活用しないままアナログに戻ることを繰り返す企業は少なくない。当社は、少量多品種の個別対応製品をどれだけ生産性を高め量産したものにできるか―をテーマに、建材ECサイト『HAGS』や『リノベ不動産』などを全国展開している。垂直統合型かつ領域特化したサービスを提供しながら、エンドユーザーが自分らしい暮らしを実現できるよう各社の業務改善支援を強化していきたい。
リノベ不動産とHAGSの事業概要
新築需要が停滞する中、リニューアル分野は堅調だ。
鎌田氏: 新築需要が落ち、中古市場が伸びていく流れは今後も拡大していくと予想する。当社は、画一的な企画住宅という選択肢だけでなく、『住宅購入+リノベーション』という不動産と建築のハイブリッドモデルを構築した。一定数の中古住宅が、有効活用できるにもかかわらず市場に流通されない状況を変革したかった。一昔前は企業にとって都合の良いものを作って売っていた時代。現在は顧客のニーズをくみ取り提案する時代に変化している。不動産・建築業界の大部分は中小企業という現実に着目し、エンドユーザーのCX(顧客体験)が向上する事業者向けソリューションの開発提供に注力していく。
リノベーション後のキッチンの風景
稲田: 大きなトレンドとしては、新築需要が落ちてリニューアル産業が伸びるという見立てに異論はない。コロナ以降に問い合わせが増えた機能は、過去の顧客(OB)管理と施主とコミュニケーションを図るツールだった。特に、新築の初期段階で施主と接点をつくり、OBになった後も関係を続け10年後のリニューアルに備えたいという具体的な要望が多く出ている。先行き不透明な時代に突入したからこそ、このような定石に回帰し新たな模索も同時に必要とされてきている。コロナ禍で人々の暮らし、住み方が変わっている中、リノベ不動産のように購入と施工、住宅ローンなどの対応もパッケージとして手掛けるネットワークが成長を続ける現実は合点がいく。リノベ不動産は売買自体のデータを蓄積し、それを施工も含めて管理していくシステム。ANDPADにも430万件以上の施工データがある。これらを中古不動産流通に生かすため、行政や不動産企業と連携していきたい。
株式会社アンドパッド 代表取締役 稲田武夫
コロナ禍が続いているが、当面注力する事業は何か。
鎌田氏: 顧客に個別性の高い自分らしい暮らしを提供する際に、事業者にとってのペインポイントを解決するサービス開発に注力していく。マーケティングオートメーション(MA)ツール『Customer now!』は、リノベ不動産向けの業務プロセスに即して開発した。効率的な顧客管理からアポイントの取得、成約率の向上を実現する自動追客ツールで、豊富なテンプレートを活用している。導入後に顧客情報を自動取り込み出来て即座に利用できることが特徴だ。現在、導入企業のアポ率2倍、獲得粗利は1・5倍になったという実績も得ている。
今年の春には、顧客情報の自動取り込みから顧客・営業プロセス・業績管理のみならず、契約書の自動作成や会計など経営管理・受発注・アフター管理までを統合するシステム『リノベ不動産cloud』をリリース予定だ。他社ITツールとのAPI連携も可能になるので、システム利用を通して業界のDX推進に貢献していきたい。また、コロナ禍で在宅時間が増えたことにより、HAGSの自宅リノベニーズが拡大し、サービス強化に注力している。洗面やトイレ、キッチン、リビングなどを限定的にリノベーションするパッケージで、会員数はこの1年で2・5倍の1万4000人超と増加が続いている。こちらもリノベ不動産と同様にブランドパートナー制度で全国展開しているので、細かな需要に応じたサービスを提供できるように努める。
株式会社 WAKUWAKU 代表取締役 鎌田 友和氏
稲田: 1月に電子商取引法などの関連法令に対応した電子受発注システムの『ANDPAD受発注』の提供を開始した。建設における労働の中で最も時間を割き、大部分がデジタルに代替可能と感じたものが受発注業務だった。ANDPADの利用者は全員IDを持っている。現場作業者が工事報告をアップし、それを納品行為と関連づければ請求のやり取りをなくせると考えている。原価状況をリアルタイムで把握できる世界を実現すれば、その効果は多方面に及ぶ。受発注と実際の工事の流れを、いかに楽にできるか。大きな挑戦であり、当面はこの点に力を注ぐ。
WAKUWAKUとアンドパッド、両社が抱く今後の展望は。
稲田: 当社にとってデジタル庁創設の流れは心強く、実際に行政主導で急速に実印が不要となる場面が増えている。建設業界ほど資料の提出が多い業種は他にない。売り上げに対するIT投資額に着目すると、他業種と比較して建設企業の割合は格段に低く、今年は企業の躍進の度合いがIT投資額に比例すると見る。1月に開催したANDPADの有効活用方法や10年後の建設DXについて議論するイベント「ANDPAD ONE CONFERENCE」は、経営者や利用者らが多数参加し大盛況となった。次の開発につながる具体策やヒントも得ることができた。テクノロジーをリアルな現場で活用する企業が増加し、本当の意味でDXが定着し継続できるのか。コロナ禍で人々の生活の在り方や働き方、住居の考え方が目まぐるしく変わる中、常に新たな提案ができるよう今後も最善を尽くす。
鎌田: 今後、DXを積極的に推進しなければ実現できないことがより鮮明になっていくと予想する。現在は不動産業界、建築業界、インテリア業界などの垣根があるが、そのような境界線は徐々にシームレスになるはずだ。顧客最優先という視点を通したら、DXを媒介とする各業界の再編は、よりスピード加速していく。リノベ不動産でのGMV(流通取扱総額)はこの1年で400億円を突破し、コロナ禍において大きく成長している。当社は、新しいカタチの住宅購入から暮らしのアップデートまでのCX(顧客体験)向上を図るため、どのような技術を織り込む必要があるかを常に考え続けている。リノベ不動産、HAGSは、それを具体的な形にしたサービスだ。人々が自分らしい住まいや暮らしを実現できる環境を今後も提供するため、技術開発やサービス向上、他社との連携を前提にした経営を手掛けていきたい。
URL | https://beat0909.com/ |
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代表者 | 代表取締役 鎌田 友和 |
設立 | 2013年6月5日 |
本社 | 〒221-0835 横浜市神奈川区鶴屋町1丁目1-2 INUYAMA BLDG. 1F 2F |
URL | https://andpad.co.jp/ |
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代表者 | 代表取締役 稲田 武夫 |
設立 | 2014年9月 |
本社 | 〒101-0022東京都千代田区神田練塀町300 住友不動産秋葉原駅前ビル8階 |