2009年に設立し、アパレル、雑貨店、薬局、エステサロン、カフェ、飲食店等の内装工事やホテルへの家具搬入などを手掛ける株式会社イデアル。「ただ、働く環境に、人に、教育にこだわった会社をつくりたい」という思いで、若手の人材育成に力を注いでいる会社だ。今回は、代表取締役・松井くみ氏へのインタビューのため、2020年秋に移転したばかりのオフィスに伺った。前編では、起業の経緯やアルバイトのキャッシュフロー改善への取り組み、女性経営者としての業界内における役割について迫る。
INDEX
- 一緒に働く方々に スポットライトを浴びせたい
- 伴走者としてキャッシュフローを伸ばし 日払いからの脱却をサポート
- 人を大切にしたいという 思いを体現したイベントを開催
- 女性経営者として 業界で求められている役割
一緒に働く方々に スポットライトを浴びせたい
店舗やオフィス内装工事やホテルの家具取り付けや、建具工事、造作工事等を行なっているイデアルは、若いメンバーが生き生きと働き、活躍の場を広げている。松井氏に創業の経緯を伺った。
「前職も内装関連の会社で支店長やエリアマネージャーをしていました。当時の会社は従業員への待遇が非常に悪く、福利厚生費が認められない上に接待交際費なども全て自腹。そのため、忘年会などでメンバーを労いたくても自分の給料から捻出することが難しく、各自飲食物を持ち寄ってもらうなど歯痒い思いをしました。いつか、全従業員を招待して、クライアントのスタンディングオベーションの中、みんなにスポットライトを浴びせたいと誓いました」(松井氏、以下同)
そして、もう一つ起業の大きなきっかけとなったのが、「日雇い」という雇用形態だ。
「この業界に携わって、初めて日雇いという雇用形態を知りました。はじめは何故このような雇用形態が必要なのか理解できませんでしたね。彼らと関わるなかで、私自身が今まで当たり前に思っていた組織への帰属意識やチームワークに価値観を感じていないことに驚きました。彼らをどうにかしたいという気持ちが湧いて、日払いから週3回の支払いにキャッシュフローを伸ばしていきました。
この業界はやりたくてやっている人ももちろんいますが、支払いサイクルの短さで選択されるほうが圧倒的に多い。そこからお金のこと、生活のこと、借金のこと、未来のことを考えて、どこでもやっていける人材を育てたいと思ったのが起業のきっかけ。内装業という業種にこだわりはなくて、彼らを育てられる仕事であれば何でも良かったというのが正直なところですね」
伴走者としてキャッシュフローを伸ばし 日払いからの脱却をサポート
創業時には、アルバイトの給料は週一に、そして現在は月一へと着実に支払いサイクルを伸ばしてきた。ここに至るまで、松井氏はどのように彼らに対峙してきたのだろうか。
「日雇労働という雇用形態で働くと、1日先までしか考えられない。そういう人生のスパンで生きていくことになります。それだと仕事においても同様にショートスパンでしか考えることができない。親の顔を知らずに孤児院で育った人からミュージシャンやカメラマン、俳優などの活動をしている人までさまざまな人がいますが、本人が諦めてしまっている未来や夢をもう一度選択できる状態にするためには、キャッシュフローを伸ばしていくことが必要不可欠。そして、仕事を通してチームワークの素晴らしさや帰属意識、仕事の面白さを実感してもらいたい。当社を卒業するまでに魅力的な人に成長してほしいんです。
今までいろいろな事情でお金の教育をされてこなかった人やお金の使い方がわからない人にきちんと教えていくにあたり、未納分の各種税金や国民年金の支払い、借金の返済など、乗り越えていかなければならない課題はたくさんあります。1年後には貯金ができている状態になるよう、彼らと一緒に給料を振り分けてお金のやりくりの仕方を教えました。どうしても貯金ができないという人には「アドバイザー料」として毎月お金を預かっておいて、卒業時に返金することも。当時は、親身になって寄り添うことで女性として見られてしまったり、身の危険を感じたこともあり、一筋縄ではいかなかったですね」
仕事を通じて金銭面で自立し、そして人と支え合うことの素晴らしさを知ってもらう。現在は、人生相談のために社内外から社長室を訪れる人が後を絶たないそうで、松井氏はまるで人材教育コンサルタントのようだ。
「人材教育そのものでビジネスがしたいわけではなく、彼らの伴走者でありたい。子どもの教育と同じだと思っていて、教育を受けるべき時に受けられなかった人に伴走するのが、私の役割。それが私の生まれてきた意味だと思っています。今まで自分のことにかなりの人生を費やしてきたので、これからは「自分の」がつかないことにどれだけ自分の人生を捧げられるかが、自分のやるべきことの意味づけになっています。もちろん、会社としてちゃんと利益を上げていくのは大前提ですが、イデアルという会社は彼らに伴走するための一つのツールですから」
人を大切にしたいという 思いを体現したイベントを開催
そして、前職で誓った従業員にスポットライトを浴びせたいという思いも、起業後3年目で実現させた。『イデミーアワード』という、社内の年間表彰イベントを開催し、クライアントも招待して従業員がどのような環境で働いているのかを知ってもらう機会になっている。
「会場にはレッドカーペットを敷き、映画や音楽で溢れている空間はアカデミー賞さながら。現場の年間MVPには、受賞者のために曲をつくって、生演奏でプレゼントしています」
映画好きの松井氏らしい演出で、人を大切にしたいという根源的な思いを体現したイベントは、従業員のモチベーションアップにも繋がっている。
2018年に開催されたイデミーアワードの模様。
女性経営者として 業界で求められている役割
建設業界では女性経営者が少ないこともあり、それによって競合他社からの誹謗中傷も多く、それは従業員にも及ぶこともあったという。
「個人的には女性の権利を主張するタイプではないですが、今まで女性であることのデメリットは最大限に体験してきたのは事実。当社では性別に捉われないフラットな採用を目指し、女性従業員も多く活躍していますが、今後は、履歴書に年齢や性別を書かずによりフラットな採用活動をしていきたい。性別や年齢、国籍も越えてその人自身を見て理解し合いたいと考えています。特にジェンダーの問題は、時代の変化や世代ごとの認識の違いも含めて言葉の一言一句神経を研ぎ澄ませてしっかりと向き合わなければならない。自分自身のもつジェンダーの認識に甘んじることなく、若い世代の意見や感覚から日々学んでいかなければと感じています。一番ハードルが高い業界だからこそ、それをどう乗り越えるかで当社だけでなく業界全体も変わると思います」
業界内で松井氏が女性経営者として求められている役割も感じているという。人を大切にする伴走者であるからこそ、サスティナビリティや男女平等の観点でSDGsについて取り組むのも自然な流れだった。今後も2030年問題についての施策を積極的に打ち出していく同社の動きによって、業界内で大きな存在価値が生まれるだろう。
URL | https://ideal-1.co.jp |
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代表者 | 代表取締役 松井くみ |
設立 | 2009年6月 |
所在地 | 〒151-0061 東京都渋谷区初台2-9-5 イデアルビル |