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「家」ではなく「環境」をつくる。地域を牽引する工務店が挑む、次世代の土地活用とコミュニティデザイン

地域の未来をつくる 環境・コミュニティ創造型土地活用セミナー 開催レポート

目次

  1. 全国から集まった、地域を牽引する工務店の挑戦
  2. 【Day1】「風景」が不動産の価値を変える
  3. 「仲良くしなくていい」から、コミュニティは生まれる
  4. 【Day2】「暑い・寒い」は気温だけでは決まらない
  5. 地域の工務店が「風景」をつくる意味

2025年11月25日・26日の2日間にわたり、東京・下北沢の「くらうま しもきた」にて、株式会社チームネット代表 甲斐徹郎さんを講師に迎えた集中セミナー「環境・コミュニティ創造型 土地活用セミナー」が開催されました。

下北沢の住宅街に佇む、緑に囲まれた会場「くらうま しもきた」

人口減少や市場の変化により、単に高性能な住宅をつくるだけでは差別化が難しくなりつつある昨今。地域に根ざす工務店だからこそ可能な「勝ち筋」とは何か。そのヒントを探る2日間の様子をレポートします。

 

全国から集まった、地域を牽引する工務店の挑戦

本セミナーは2日間の集中講義形式で行われました。参加したのは、岐阜、熊本、埼玉、青森と、全国各地で地域に根ざした経営を続ける工務店・ビルダーの経営者の方々です。

自己紹介のパートから、すでに深い議論が始まりました。 

「かつて製材所から住宅事業を始め、性能向上にも取り組んできた。しかし今はそこから、『岐阜の森を守り、豊かな暮らしをつくる』という方向へさらに舵を切っている。衣食住を整え、地域を元気にする拠点をつくりたい」(岐阜県の企業・リノベーション部 部長) 

「半導体工場の進出でまちが激変するなか、我々も積極的にまちづくりに関与していきたい。単に建物を増やすのではなく、『地域の環境をより良くする』、環境にポジティブな影響を与える開発ができないかと模索している」(熊本県の企業・常務取締役)

それぞれが抱える地域課題は異なりますが、「自分たちは単に建物を建てるだけの存在ではない」という強い想いは共通しています。

 

【Day1】「風景」が不動産の価値を変える

初日は、「環境」と「コミュニティ」を軸にした土地活用の概念と、具体的な事業スキームについて学びました。

特に印象的だったのは、環境が人の行動を自然と誘発するという「アフォーダンス理論」を応用し、風景をデザインすることで不動産価値を高めるというロジックです。 「コミュニティを作ろう」と意気込むのではなく、住まい手が心地よく過ごせる「環境(風景)」をデザインすることで、自然と人が関わり、結果としてコミュニティが醸成される。この順序こそが重要であるという話に、多くの参加者が頷いていました。

 

「仲良くしなくていい」から、コミュニティは生まれる

さらに、甲斐さんが提唱する「コミュニティ・ベネフィット論」が、参加者の視点を大きく転換させました。

「多くの人は、コミュニティの煩わしさを恐れている。だからこそ、『頑張って仲良くしましょう』と言ってはいけない。コミュニティは目的ではなく、豊かな環境を手に入れるための『手段』と割り切ることで、逆に持続可能なつながりが生まれる」(甲斐さん)

「仲良くするため」ではなく、「自分の暮らしを豊かにするため(=ベネフィット)」に共有部を使う。その結果として挨拶や交流が生まれる。この理論を実証する事例として紹介されたのが、埼玉県新座市の賃貸プロジェクト「ケヤキファミリア」です。

一般的な市場原理(駅距離や広さ)ではなく、「自然に還るように、暮らす。」という唯一無二の体験価値を提示し、周辺相場の約1.4倍という家賃設定にもかかわらず、説明会からわずか3週間で全棟が成約。スペックやコスパを超えた、「幸せへの投資」という価値観が市場に確かに存在することを証明しました。

>>ケヤキファミリアについてはこちらの記事もご覧ください

1日目の最後には、その日に学んだことも活かしながら実際の土地の区画割や配置計画を行う演習問題も

 

【Day2】「暑い・寒い」は気温だけでは決まらない

2日目は、より実践的な「環境デザイン」の手法へ。ここでキーワードとなったのが、人間の「体感原理」です。

まず投げかけられたのは、改めて考えると非常に不思議な問いでした。

「室温22℃の部屋は快適ですが、水温22℃の水風呂に入るととても冷たい。これはなぜですか?」(甲斐さん)

同じ温度であるにもかかわらず、人はまったく異なる感覚を抱く――その事実を前に、そもそも「体感」とは何によって決まるのか、参加者の関心が一気に高まっていきました。

この問いに対して、甲斐さんから「体感原理」についての解説が行われました。重要なポイントは、「体感」は単純に空気の「温度」によって決まるものではなく、人の身体と周囲の環境とのあいだで生じる「熱の移動」によって左右される、という考え方です。

その理解を深めるため、参加者は放射温度計を手に取り、日射に見立てた投光器の光で加熱された「すだれ」の前に立つ体感実験を行いました。実際に計測すると、光を受けた部分のすだれの表面温度は急激に上昇し、その前に立つと体感温度は明らかに高く、強い暑さを感じます。

ここで得られた重要な気づきは、その場の「気温」が変化したわけではない、という点です。変化したのは、あくまで「すだれ」の表面温度でした。つまり、空気の温度が同じであっても、周囲に表面温度の高いものが存在すれば、そこから放射される熱が人の身体に作用し、体感温度は大きく変化するのです。

この「作用」こそが、人の身体と周囲の環境とのあいだで生じる「熱の移動」であり、体感を左右する本質的なメカニズムであることが、実感を伴って理解されました。

その後、甲斐さんは熱くなった「すだれ」に霧吹きで水を吹きかけます。すると、表面温度は瞬く間に低下し、先ほどまで感じていた暑さも、体感としてほとんど意識されなくなりました。

この体験を通じて、「体感」が自分の身体を取り巻く環境との「熱の移動」によって生まれているという本質が、参加者の中で腑に落ちていきます。そして、周囲の環境に少し手を加えるだけで、快適な体感をつくり出すことができるという可能性を実感しました。

機械設備に頼るだけでなく、水や植栽、風の通り道といった自然の原理をデザインに組み込むことで、心地よい「体感」を生み出すことができる。その具体的な手法としての「パッシブデザイン」の重要性を、まさに身をもって体感する時間となりました。

 

地域の工務店が「風景」をつくる意味

2日目の後半では、参加者が現在進行している分譲地計画などの実際のプロジェクトを持ち寄り、ディスカッションを実施しました。

「人を集めるイベントを企画するのではなく、環境が人の行動を自然と誘発する『アフォーダンス』の視点で、人が『たたずめる』場所をどうデザインするか」。 その考え方をベースに、「ここを2階リビングにすれば、桜の木が借景になるのではないか」「室内から見るだけでなく、外からのライトアップも検討しては」といった、具体的なプランに対する熱のこもったアドバイスが飛び交いました。

当日は急遽、飛び入り参加ゲストとして、環境建築の第一人者でもある川島範久さん(川島範久建築設計事務所 代表)から事例紹介をいただく場面も

性能や品質が担保された「プロダクト」としての住宅供給が当たり前になった今。地域に根ざした経営を続ける工務店・ビルダーに期待されるのは、その土地の風土を読み解き、点ではなく面で地域の価値を上げる「プロジェクト」を描くことではないでしょうか。

今回のセミナーを後援した、私たちアンドパッドが目指すのも、単なる業務効率化だけではありません。こうした「地域の未来をつくる」志を持つ経営者の皆様をつなぎ、共に建設業界の新たな可能性を模索すること。それもまた、ANDPAD ONEが大切にしているミッションの一つです。

「環境」と「コミュニティ」を武器に、次の時代を切り拓く。 参加された皆様の表情は、2日間の濃密な学びを経て、より一層晴れやかに見えました。

>>今回のセミナーを主催した株式会社チームネットの代表 甲斐さんへは、以前にANDPAD ONEでもインタビューさせていただきました。こちらのインタビュー記事もあわせてご覧ください。

企画: 平賀豊麻
編集・執筆: 原澤香織
デザイン: 岩佐謙太朗
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