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岐阜県土岐市を中心に、大工の知識と経験を生かし、お客様のこだわりを叶える家づくりをしている株式会社家ZOU。鉄など木材以外の素材も組み合わせながら、土地に合った高い強度とデザイン性を両立させた注文住宅を建設している。デザイン性の高い外装のほか、アイアン家具や薪ストーブなど憧れのインテリアも取り入れられることで注目され、ルームツアーなどのコンテンツを掲載したInstagramやYouTubeも人気だ。
同社では2019年にANDPADを、2021年にANDPAD引合粗利管理を導入した。今回は代表取締役である大島祐一さんと妻の大島香代さんにインタビューを実施。前編では、大工時代から会社設立に至る経緯や仕事におけるこだわりなどについて紹介する。
大島 香代氏
職人だった代表の大島さんを支えながら、独自で木造建築を学び2018年に代表の大島さんと夫婦2人で株式会社家ZOUを設立。持ち前の感性で、プランニングからコーディネーターまで幅広く活躍する。同社で販売する販促品のデザインも担当
お客様と同じ目線で、楽しい家づくりがしたい。独立するも自転車操業で苦労
「『ちょうどいい』が『すごくいい』」をコンセプトに、岐阜県の東濃エリアや尾張エリアで注文住宅を請け負っている株式会社家ZOU。元大工である代表の大島祐一さんが自らお客様と打ち合わせを行い、家族構成や趣味などお客様それぞれの事情やこだわりに合わせた家づくりを提案。唯一無二のスタイリッシュで機能的な家をつくり、業績を拡大し続けている。
祐一さんが大工になったきっかけは、北海道での偶然の出会いだ。高校卒業後、大手警備会社で働いたが退職。次に何をしたらいいのか分からず、自転車に乗って2週間ほど北海道を旅した。その道中、建設中の喫茶店を見つける。喫茶店のオーナーは「自分の店だから自分でつくりたい」と、大工に協力してもらいながら自ら店をつくっていた。その姿に心打たれ「自分も形に残るものをつくりたい」と、大工になることを決意。旅を終えた後、一人親方に弟子入りして働き始めた。20歳のことだった。
祐一さん: 仕事のやり方を細かく指導するのではなく、背中を見せるタイプの親方で、最初の1年は掃除や釘拾い、研ぎ物くらいしかさせてもらえませんでしたね。材料の扱い方や刃物の使い方、仕事に対する姿勢を教えてくれたのは、すでに独立した兄弟子です。兄弟子から「親方が現場に来る前や帰った後に現場に行って、親方がその日どんな仕事をしたのか学ぶんだ」とアドバイスを受け、少しずつ親方の技術を盗んでいきました。6年ほど修行したのですが、すごく厳しい親方だったのでそれほど長く働き続けたのは、僕くらいだと思います。
株式会社家ZOU 代表取締役 大島 祐一 氏
祐一さん: 長く一人親方についていたため、その後入社した工務店では環境の違いに驚きました。例えば分業制です。それまでは親方と一緒にあらゆる作業をこなしていたので、分業制では培った技術が生かし切れないと感じたんです。そのうえお客様と接する機会も減り、自分が本当にお客様の希望を叶えられているのか疑問に思うようになりました。だんだんと「自分でやっていきたい」という気持ちが強くなり、2年半勤めた工務店を退職し、一人親方として独立しました。
独立後はハウスメーカーの下請けや設計事務所から依頼された仕事をしながら、建築業界の人脈を広げていった祐一さん。会社設立を見据えて屋号も「大祐建装」から「家ZOU」に変更した。自身の名字を頭につけて「大島建築」とする社名が一般的だったため、周囲からは笑われたが気にとめなかった。
香代さん: 「家ZOU」の名称は、創造や造作など、つくるという意味の言葉によく使われる「ゾウ」の音から取りました。ZOUと書くと、かわいらしく親しみやすい感じもしますしね。
家ZOUとして、最初につくったのは祐一さんと香代さんの自宅だ。北海道で出会った喫茶店のオーナーのように、自らの手で自分たちの城をつくっていった。仕事で仲良くなった業者や職人さんのほか、電気設備関連の仕事をしている同級生らが総出で手伝ってくれたことで、仲間内だけで完成させることができた。現在の会社のロゴである「家を背負った象」のモチーフになったのは、この自宅だ。自宅が完成したことで、これを実績としてアピールしていった。
祐一さん: ただ完成までの半年間、ほかの仕事ができなかったため無収入でした。新築住宅の注文がなく、主にリフォーム工事をやっていたのですが「来週の仕事がないけど、どうしようか」というときもありましたね。まさに自転車操業です。お金がないので自宅にはカーテンがつけられず、家族旅行は自家用車に荷物を積んで出かけて、お金をかけずに楽しめるやり方で家族の時間も大事にしていました。今の事務所をつくるまでは自宅を打ち合わせスペース兼モデルルームにしていたのですが、外構工事もできていなかったため、雨が降ると自宅前がぐちゃぐちゃになってしまい、お客様には申し訳なかったですね。当時はとても苦労しましたが、それでも楽しむことを大切に夫婦で経営していました。
一人親方は体力的にも資金的にも限界。法人化して元請けに
新築住宅の注文がなく、来期の見通しすら立たない状況が続いた同社。ようやく1棟目を受注できたのは、3年目のことだ。知り合いから「ほかの工務店に相談していたが価格面で折り合えず、信頼できる業者を探している人がいる」と紹介を受けた。待ちに待った新築住宅。施工事例にもなり、なにより紹介という縁を大事にしたいという気持ちもあって、利益度外視で取り組んだという。
香代さん: 2棟目は子どもの同級生家族からご依頼をいただきました。そのころ国道沿いに看板を立てたり、工務店のWEB制作に強い会社、株式会社アババイの山本社長との縁もあって、ホームページ制作やSNS運用を頼んだりと、認知拡大にも取り組んでいました。紹介媒体や紹介カウンターにわずかな費用を払っても効果は出ないだろう、それよりも地元の方や、家ZOUのデザインがマッチする層にリーチする必要があると考えたんです。広告宣伝費の投資先として、広告の比重を下げてホームページとSNSに尖らせました。マーケティングの主戦場を変えて、家ZOUの家づくりや魅力に関心のあるユーザーにシャープに届くコンテンツ展開をしていこう、と。するとホームページを見た方からもご依頼があったんです。知り合いでも紹介でもない、純然たる新規のお客様でした。
写真左:株式会社家ZOU 大島 香代 氏
夫婦で歓喜し、一生懸命取り組んだ。ただ20年以上大工として現場に出続けた祐一さんの体は、限界を迎えつつあった。
祐一さん: 痛めた腰は手術をしてなんとか仕事を続けていました。しかし以前に比べて建材がどんどん重くなっていて、腰への負担は増していました。腰を壊せば車椅子生活になる可能性がある。しかも一人親方は年間1,000万円売り上げても、材料費などの経費を引いたら手元に残るのは600万円程度。年金も退職金もありません。冷静になって状況を見て、このまま一人で仕事をし続けるよりも、会社を設立して信頼できる仲間に現場を任せていく方がいいと思いました。そこで3棟目は確かな技術のある大工さんに現場を任せて、僕は監督業に回りました。幸いにも一人親方や工務店時代の繋がりで、腕の良い職人さんとも縁を持てていたというのも大きかったです。その後、家ZOUを法人化し、現場から経営へとシフトしなければならないと意思を持ちました。
事業が軌道に乗り始め、仕事は忙しくなっていった。夫婦2人で経営していたため、総務から営業、現場の写真撮影、地鎮祭の予約まで、すべて自分たちでこなすことに。土日はお客様との打ち合わせ、平日は業者さんとのアポイントメント、定休日である水曜日も現場をハシゴして写真撮影をしたり大工さんに差し入れをしたりした。
祐一さん: 大変ではありましたが、一方ではお客様がまったくいない時期には「休んじゃおっか」って、3日ほど事務所を閉めたこともありましたね。そういうある種の創業期の苦労も、自由度の高さと捉えて楽しめていましたね。その時々で大変さや苦労の種類に違いはあれど、無理せず「楽しく」仕事をするのが家ZOUのモットーです。
自分たちが家づくりを楽しめば、お客様も楽しい
その後は年に3棟、6棟、11棟と順調に業績を伸ばし、2022年は18棟で着地する見込みの同社。社員・スタッフも増え、2022年現在では8名体制となった。人が増え、仕事が増え、事務所にはお客様や業者さんが頻繁に出入りするが、みなその表情は明るく、打ち合わせスペースからは笑い声が聞こえる。
祐一さん: 仕事においては、まず自分が楽しむことを大事にしています。自分が心から楽しんでいれば、お客様にその気持ちが伝わります。逆に楽しそうでなければ、お客様は「この会社に任せていいんだろうか」と思ってしまうでしょう。家は一生に一度の高い買い物。心配も不安もたくさんあるはずです。型にはまった質問だけしていても、本当の気持ちは教えてもらえません。だから友人のようにカジュアルに接して、お客様の想いやニーズをうまく聞き出すようにしています。ただ、ときどきやりすぎてしまって、妻に怒られているんですけどね(笑)。
香代さん: お客様からも「打ち合わせが楽しみだ」と言っていただけるんです。この「アットホームさ」は家ZOUの強みなのかもしれません。スタッフ募集時も最初は応募がなかったんですが、採用ページに「アットホームな社風」という言葉を使ったら、そこに惹かれて応募者が増えていきました。そこから入ったスタッフも、すごく楽しそうに仕事をしてくれています。
「家づくりを楽しんでもらう」ために、同社ではさまざまなイベントの機会を設けている。家づくりは結婚式よりもお金がかかるが、結婚式に比べてお客様が参加する機会が少なく思い出がつくりづらい。「自分の家なのに、それでは寂しすぎる」との想いから、地鎮祭はスタッフを集めて賑やかに進め、上棟の際には手形式を開催するなどして、お客様に参加してもらっている。それが大工さんのモチベーションアップにも繋がっているという。
祐一さん: 上棟式では、お客様と大工さんの顔合わせも行います。実は当社ではお客様に大工さん用のお弁当を持参してもらい、一人ひとりに手渡ししながらご挨拶をしていただくように促しています。大工さんとお客様が顔を合わせないまま現場が進行すると、現場を見にきても通りすがりの人だと思ってしまいますよね。それでは「誰のためにやっているか」が分からず、大工さんのモチベーションにも繋がりにくいのではないかと思っています。
上棟式でお客様から「よろしくお願いします」と挨拶していただき、一緒にお昼ご飯を食べることで、お客様はその後現場に行った際に大工さんに話しかけやすくなるし、大工さんも自分たちが誰の家を建てているのか分かるのでモチベーションがアップします。自分が大工をしていたころ、お客様とのコミュニケーションがないことにずっと疑問を感じていたんです。だから今は最初の接点づくりは大事にしています。
新築注文住宅の実績が積み上がり、相談・依頼も増えている同社。岐阜県内の人に知ってもらうために国道沿いに野立看板を設置し、ホームページに誘導しているほか、SNSでの発信にも力を入れている。手がけた住宅のこだわりポイントを伝えるInstagramのフォロワーは1.3万名。YouTubeのルームツアー動画も人気だ。
祐一さん: 今は看板などを見てフラッと立ち寄ってくださる方もいますが、これからは“ついで”ではなく、「家ZOUに相談したい」と“指名”で来ていただけるお客様を増やしていきたい。そのためにブランディングに力を入れています。どれだけいいものつくっても、知ってもらわないと意味がありませんからね。指名で家ZOUを選択するお客様が増えたら、事務所をもっと緑の多い場所に移して、カフェを併設して、マルシェやBBQを開催したい。それが僕の今の夢ですね。
仕事が増えるにつれて、2人での業務管理が限界に。ANDPADを導入したものの想定外の事態が
同社がANDPADを導入したのは2019年。年間で3棟建てることになり、急激に忙しくなったタイミングだ。当時はお客様との打ち合わせから材料の発注まで、すべて夫婦2人でこなしていたため、祐一さんが現場に行く時間は無くなっていった。信頼できる職人に任せているので間違いはないとは思うものの、もしものことがあればやり直しになってしまう。知らないうちに工事が進むことに「怖さ」を感じていたという。また、経営者であり営業であり、監督でもある祐一さんの頭の中にある情報を、香代さんやアルバイトスタッフへ伝えるべきところだが漏れが頻発するように。祐一さん自身も忘れてしまったり、勘違いしていたりと、オペレーション上の不備が生じやすい環境になっていった。
香代さん: これまでの1棟から3棟へと棟数が増えるなかで、お互いで情報共有の抜け漏れが起こりやすくなっていきました。Excelでタスク管理をしていたのですが、次第に追いつかなくなり、保険の手続きや地鎮祭の予約など、打ち合わせ以外の業務にも抜け漏れが発生し始めました。地盤調査の結果がでたときに、地盤改良業者の予約を忘れていたことに気づいたこともありましたね。建築確認申請に手間取り着工が遅れてしまったときは、その間に大工さんが別の現場に入ってしまいました。技術力や人柄などがしっかりした人に任せたいという想いが強いため、大工さんや職人さん探しに苦労しましたね。
一人親方時代があるとはいえ、初めての元請け、会社経営で知らない・分からないことも多かった。そこで業務管理・効率化ツールを探し始め、取引先からの紹介でANDPADを導入した。ところが多忙すぎて、ANDPADに慣れる時間がない。そのうえ職人さんがデジタルツールの導入に前向きになってくれるかどうか不安で、職人さん向けの説明会と利用登録にもなかなか踏み出せなかった。結局、ANDPADを開くのは祐一さんが工程表をチェックするときだけ。自身の頭の中にある情報をANDPADに入れて共有しなければ……そうすればミスも減るはずだ、使いこなせば便利なはずだ、そう頭では理解していたものの、物理的に手が回らない。ジレンマを抱えたまま、導入から1年近くが過ぎた。ブレイクスルーとなったのが、2名の社員の入社だ。
祐一さん: 現場監督として入社した西尾に、ANDPAD運用浸透の推進者を任せました。ANDPADを使って、そこに情報を蓄積していく体制をつくりたい。そのために自分の頭の中にあった情報もきちんと西尾に伝え、それをしっかりANDPADに入れてもらう。協力会社の職人さんとのやり取りもANDPADで行うことで、そこに行けば情報がある、という状態をつくりたい。そう決めて西尾に任せたところ、彼はしっかりと応えてくれました。また、事務として入社した鈴木は、職人さんたちのログイン対応を進めてくれて。こうした社員たちの協力を得て、ようやくANDPADを会社全体で活用できるようになりました。
お客様の希望を実現するために、信頼できる職人だけを集め、クオリティの高い住宅を提供してきた同社。フレンドリーに接してお客様との関係を築き、イベントを開催して家づくりを楽しんでもらえるように取り組んできたこともあって、利用者の満足度は非常に高いという。
後編では適切な現場管理と業務効率化、会社の健康状態把握のためにANDPADを活用して進めるDXについて、深掘りしていく。